「…炸羅?」 ノックをした後、鴉嵐はそっと寝室のドアを開いた。 毛布に丸まっている塊を見つけ、ゆっくり近付く。 「…遅ぇよ」 手を伸ばした瞬間くぐもった声が微かに聞こえ、そっと毛布をめくると、顔を真っ赤にして横目に睨む炸羅と目が合った。 鴉嵐は思わず吹き出し、ベッドの端に腰掛ける。 「なっ、何笑ってんだよ!」 「いえ、随分可愛い子が出てきたなと思いまして」 茶化すように笑う鴉嵐に、炸羅は渾身の力を込めてマッハパンチを食らわせた。 そしてその直後、無言で鴉嵐の身体に抱きつく。 鴉嵐は頬を擦りながら、それを優しく受け止めた。 「…本当に、すみませんでした。クリスマスなのに、一人にさせてしまって」 「……」 微かに震える身体をそっと包み込み、精一杯抱き締める。 懺悔の気持ちと愛しさが入り混じり、どうしようもない感情に襲われながら、鴉嵐は炸羅の顎を持ち上げた。 「…また、泣かせちゃいましたね」 有無を言わさず重ねられた唇に、炸羅は身体を強ばらせる。 数分後にようやく解放され、炸羅はバツが悪そうに目を逸らした。 「…もう、そんなんで誤魔化されねぇぞ」 「おや、学習しましたね」 鴉嵐は笑って、おもむろにポケットに手を入れる。 目の前に差し出された小さな包みと鴉嵐の顔を交互に見て、炸羅は尋ねた。 「……なに?」 「素直に受け取りなさい」 笑みを浮かべたままの鴉嵐を横目に、炸羅は黙ってその包みを受け取る。 リボンを解き几帳面に包み紙を剥がすと、小さな箱が現れた。 その蓋をそっと開けてみると、小さく光るリングが一つ。 「………え」 「散々悩んだんですけど、やっぱりここはベタにいこうかと思いまして」 鴉嵐はそのリングを取り出すと、炸羅の左手を持ち上げ、その薬指にそっとはめた。 「これからもずっと、一緒に生きて下さい」 視線は外したまま、一言添える。 見つめる左手に水滴が落ちてきたことに気付き、鴉嵐は顔を上げた。 「…っ……ッ、」 大粒の涙を両目からぼろぼろ溢し、必死に嗚咽を堪える炸羅と目が合い、鴉嵐はぽかんと目を丸くした後、盛大に吹き出した。 「…わっ…わらうなぁ…」 「だっ…だって炸羅、酷い顔…ふふっ」 「…うっせぇばか…!!」 「はいはい、よしよし」 「ばか、ちくしょう、こんなの卑怯だっ…」 炸羅は鴉嵐の身体を力なく叩いて、涙を拭った。 ぐちゃぐちゃな顔を俯かせ、消え入りそうな声で呟く。 「……ありが、とう」 鴉嵐は聞こえないふりをして、もう一度炸羅を抱き締めた。 脱力したまま、抵抗する気を見せないことを確認すると、ゆっくりその身体をシーツに押し倒す。 クリスマスは恋人同士の、特別な日。 空間の埋まったベッドに、炸羅は冷えきっていた自分の心が次第に温まっていくのを感じた。 ← → |