小説 | ナノ

「あー…ちょっと食い過ぎたな…」

泡立つスポンジを動かしながら、炸羅は手元の皿を見つめる。
最後の一枚を洗い終え水道の蛇口を閉めたところで、背後から声が聞こえた。

「お疲れさまです、手伝いましょうか?」

茶筒の蓋を開けながら、鴉嵐は炸羅を見た。

「平気。っておい、それ湯沸かしたのか?」
「え?あぁ、そういえばそうですね」

急須に茶葉を入れ、水を注ごうとする鴉嵐に盛大にため息をつき、炸羅はやかんに火を点けた。

「ったく、慣れねぇことしなくていいからさ、茶はオレが持ってくからアンタは先戻っ…」

ぎゅ。

言い終えるより先に、温もりに包まれる。
突然後ろから抱きしめられたことに、炸羅の行動と思考が一瞬凍り付いた。

「…おいバカ、火点いてんのに危ねぇだろっ…!」
「何時ごろ、帰ります?」

鴉嵐の質問のその先の意味を理解するのに、さほど時間はかからなかった。
炸羅は言葉を詰まらせ俯き、ただ鴉嵐の二言目を待った。

「お茶飲んだら帰りましょうか。クリスマスはこれから、ですもんね」

耳元で響かれる低音に思わず心臓が跳ねる。解放された後、うるさく脈打つ鼓動を必死で静めながら、炸羅はひたすら笑顔の鴉嵐を睨んだ。