同時刻。 「ふうか、何作ってんの?」 キッチンでチョコレートを湯煎中の風渦の背後から、ひょっこり煌伯が顔を出した。 「…よくもそんな白々しいことを…あんな泣き付いてきておいて」 「へへへーうまそうー」 「ちょ、くっつかないでよ危ないから!」 「お返し何がいい?」 「…気が早すぎ」 「オレでいい?」 「馬鹿じゃないの」 ばちんとコンロの火を止め、鍋からチョコレートの入ったボールを取り出す。 「どうせ今年も、女の子達からたくさん貰うんだろ」 チョコレートをヘラでかき混ぜながら、風渦は少し苛立った口調で吐き捨てた。 その予想外の発言に、煌伯は目を見開く。 「…は?」 「毎年部屋から溢れるくらい貰うくせに」 派手に暴れ回ることが好きな煌伯は、近所のケンカでは飽き足らず、しばしば街のバトル大会に出場することもある。 そのため、街で煌伯はちょっとした有名人なのだ。 本人にその自覚はゼロだが、風渦にはどうしても不安なことがあった。 「……ハクがまた告られてんの…見たくない」 毎年贈られてくる、山のようなチョコレート。 毎年煌伯に言い寄ってくる女の子達。 それを見て、確実に嫉妬している自分を見るのが、風渦はたまらなく嫌だったのだ。 いつか煌伯を盗られるのではないか… そのことだけが、風渦をいつも悩ませていた。 「お前…そんなこと気にしてんの?」 「あのねぇ!俺はっ…」 「ったく、余計な心配してんなよ。有り得ねぇから」 オレが、風渦以外のヤツになびくわけねぇだろ。 真っ直ぐ、真剣な瞳でそう見つめられ、風渦はバツが悪そうに目を伏せると、チョコレートを型に流し始めた。 「…あれ、無視?」 「わかった。もうわかった。ごめんね。忘れて」 「うん…?でもあれだぜ、オレが欲しいのはマジで風渦のチョコだけだからな」 楽しみにしてる。 そう言い残して、煌伯はキッチンを去った。 煌伯の姿が見えなくなったのを確認すると、風渦はほっと息をついた。 彼の前で目に見えて分かるヤキモチを妬いてしまったことを少々悔やみながら、甘い甘いチョコレートを一口味見する。 『あの目に弱いんだよなぁ…』 頭の隅でぼんやりそんなことを思いながら、今年は頑張ってトッピングも考えてみようと密かに決意する風渦なのであった。 end. ← |