呆けていたのが間違いだった。

足元なんか見てたのが間違いだった。





「(魔法史のテスト、面倒だなぁ)」





自分のものとは違う早い足音に、荒い息遣いに、私は気付かない。





「きゃ、」





衝撃と共に視界反転。バサリ、バサリと宙を舞っては降ってくる魔法史と薬学の教科書やグルグルの羊皮紙。固く瞑った目に映るものはなく、感じるのは、自分の体にかかる不可思議な重みと、廊下の冷たさ、何処かで嗅いだことのある匂い、そして





唇に、生温さ。
ぬるりと口内に侵入してきたそれは、なんとも不味い鉄の味。輪郭を伝って、つぅと滴が頬を滑った。





ドラマのようにはいかない
(痛っ〜…)
(す、すまない)


瞼を上げれば、ほぼ0に近い距離で心配そうに私を見る黒い瞳と目があった。ネクタイは緑色。その人の唇に不自然な赤を見たとき、事の重大さに気付くのだった。
(ファーストキスは、とても痛くて不味かった)




0902>>>title:Aコース