大広間はクリスマスムード一色で、今も私の背後でマクゴナガル先生とフリットウィック先生が忙しそうに飾り付けを行っている。

一方私はというと、あの後一旦自室へ戻ったが、扉を挟んで向こう側に教授が居ることが耐えられなくて、書きかけの羊皮紙と羽ペンを引っ掴んで逃げるようにここへとやってきた、というわけで、クリスマスとはまったく関係のないレポートを絶賛執筆中である。





「ナマエ、そこに置いてある星の飾りを取って頂戴」

「はい」





マクゴナガル先生に言われて、顔は羊皮紙に向けたまま、手だけ伸ばしてそれらしき感触の飾りを渡すと、すぐさま呆れたような短いため息が帰ってきた。





「ナマエ…、これは星飾りじゃなくてあなたの赤点レポートですよ」

「うえぇっ!」





慌てて顔を上げると、確かに裏を向けて置いていた恥ずかしいレポートは手元にはなく、代わりに金色の星飾りがひとつ。おそるおそる後ろを振り返ると、マクゴナガル先生が眉を上げた表情で、ひらひらと羊皮紙を左右に遊ばせていた。





「飾ってほしければ飾って差し上げますよ?」

「それだけは勘弁してください!」





あー、恥ずかしい!頬か赤くなるのを感じながらこんどはしっかりと丁寧に両手で星飾りをわたすと、クスリ、マクゴナガル先生が噴出した。その表情にさらになんとも言えない羞恥心が襲い掛かる。





「教授といい、校長といい…、なんでこの学校の先生はドSばっかりなんだ…」

「なにかいいましたか?」

「い、イエ、ナニモイッテオリマセンデス」





ふう、とため息をついて座りなおし、深呼吸を一つ。再びレポートを書き始める前になぜか目がいったのは、先ほど取り返したばかりの最悪レポート。そこには何度も見た数々の赤線とスペルミスの指摘。そして、

至る所に丁寧な書き方に関する指摘と、さまざまな参考文献の紹介が、もう大分見慣れた字体で丁寧に書き込まれていることに気が付いた。

この羊皮紙を返されたときは、余りのひどさに自分で見るのも嫌で、さらっとしか見ていなかった。まさか、ここまで書いてくれていたとは…。





「反則ですよ、教授…」





こんなところで優しさを垣間見てしまうとは。さっきまで昂っていた教授への感情が、徐々に収束していく。そして、怒りはだんだんと悲観的なものへと変わっていった。

私なりに、精一杯頑張ってきたつもりだった。薬学に関しても、教授との人間関係に関しても何だかんだで、自信はあった、んだ。ほんの数時間前までは。





「…私はただの厄介者、か」





口に出してみて、さらに落ち込んだ。思い返せば、今まで私は教授の何の役に立ったというのだろう?授業の手伝いやその他雑用をしている時間より、することが無くて持て余していた時間のほうが多かったように思う。それは、私が助手として頼られていないということで…。私は、要らな、「あぁー!!駄目だ、駄目駄目!」





今更落ち込んで如何する!ポジティブシンキングだけが取り柄なのに!頭をふって先ほどまでの考えを散らす。そうだ、落ち込んでたって何も始まらないんだから。いまはレポートを完璧に仕上げて、教授を見返すことが最優先、うん。さぁ、書くぞ!





「ニコラス・フラメルのことよ」





ボタリ、書きかけの文字の上にインクが落ちた。今の声は、ハーマイオニー、でなんていった?





ニコラス…、ニコラス・フラメル!?





(あれが守っているのは、ニコラス・フラメルという人物の作った“賢者の石”だ)

(ニコラス・フラメル)





「ちょ…、まじか」








何で知ってるんですかお嬢さん
(極秘じゃなかったの!?)










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