「ちょ、一旦落ち着こu「ぐおぉおぉぉ」」





私が幾ら宥めようとしても理解していない様子のトロール。こん棒を振り回し、洗面台をなぎ倒しながら、のしり、のしり、と徐々に近づいて来る。私の後ろにはローブを掴んで震えるハーマイオニー、その後ろは真っ白な壁。





「(なんとかハーマイオニーは助けなきゃ)」





しかし、トロールが一歩踏み出す度に心臓がはねあがって、全く頭が回らない。呪文が、何も出てこない。あぁ、もう大人の魔法使いなのに!ホグワーツ教員の助手なのに!生徒一人守れないなんて、なんて情けない!恐怖に心が溺れて行く。





「(もう駄目だ…!!)」





覚悟を決めた、その時だった。
カラン、カランと、金属音。その次に聴こえたのは、少年の叫び声。再び金属音と先程とはまた違う少年の叫び声。

一体、今何が起こっているのか。固く閉じた瞼をそっと開けると、目の前には稲妻の傷跡と綺麗なグリーンの瞳。





「ハ、リー…!」

「早く、走れ!走るんだ!」





居る筈のない彼の姿に一瞬戸惑ったが、その叫び声で直ぐ様我に帰り、必死でハーマイオニーを引っ張る。だが完全に腰の抜けてしまった彼女の足は言うことを聞かなかった。


その時、ハリーの叫び声にトロールが興奮し、再び声を上げて逃げ場の無いロンの方へと襲いかかり始めた。その瞬間、ハリーが物凄いスピードで飛び出し、トロールの首に腕を巻き付け、自信の杖をトロールの鼻に突き刺した(うわ、痛そう)。トロールは痛みの余り、滅茶苦茶に棍棒を振り回し、ハリーを振り落としにかかる。





「イ、インペディメンタ!!」





ハーマイオニーを抱えたまま咄嗟に杖を向け、思い浮かんだ呪文を叫ぶ。するとトロールは暴れるのを止め、一時停止した(やった!うまく出来た)。





「ウィンガーディアムレビオーサ!」





ハリーが無事に怪物から手を放し着地した所で、ロンが最後の一撃を与え、トロールはその場に倒れ込み動かなくなった。





「た、助かっ…、た」





一気に静けさを取り戻した女子トイレに、へなへなと座り込む。つい先程までの命の危機が全て夢のように思えた。





「これ、死んだの…?」

「いや、ノックアウトされただけだと思うけど」

「じゃぁ、目を覚ます前に避難しなきゃ…」





とは言ったものの、誰も出ていこうとはしない。すると、ハリーが徐にトロールに近付き何かを引っ張り出した。グチャリ、ネチャリと不快な音が聞こえる。





「うわ、トロールの鼻クソだ」





取り出した杖に練っとりとまとわりついているそれを、ハリーはトロールのズボンに擦り付け始めた。ハリー意外と酷いな、とひっそり思ったが、何となく口には出さなかった。


暫くすると、急に足音がバタバタと聞こえ、三人の先生が乗り込んできた。最初にやって来たマクゴナガル先生は怒り心頭と言った表情で、クィレル先生は目を見開き、何時も以上におどおどしたしだ。そして、スネイプ教授は…

無表情。そう正に無表情だった。ジロリとハリー達三人を見回し、トロール、最後に私と目があったとき、チッっと盛大な舌打ちを打つと同時にどす黒いオーラが教授から発せられているのが、嫌でもわかった。





「(うわーやべぇ…)」






興奮状態だった脳が、一気に覚めていった。








正直トロールより怖い
(ミョウジ、お前は我輩の部屋で待っていろ)
(は、えっ…?)
(さっさと行け!!)
(は、はいぃっ)









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