ゆらゆらと揺れる視界。
零れる涙を見るのが、余計に辛かった。

俺が悪いんじゃない。
全部あいつが、音無が悪い!



初めはちょっとした事だった。
音無は俺と違って色んな奴と仲が良いし、信頼されてるし、ゆりっぺにだって気に入られている。
別にそれはよかった。

新入りである音無に負けている事実は少し嫌だったが、それは仕方ない。
俺の性格上、戦線メンバー全員と仲良くするなんて無理だし、する気だってない。

でも仮にも恋人である俺を差し置いて他の奴と楽しそうにしてるのを見ると、なんだか無性にイライラした。

そう、あんなに楽しそうに。

原因のわからないイライラに余計に不機嫌になる。
と、そんな時だ。

明日は泊まりに行くと約束していたのに、無理になったと断られた。
なぜだと聞いたら他の奴との用事があるとかなんとか。
正直全然耳に入ってなかった。

「の、野田…?」
「っいい、もういい」

気が付いたら音無を置いて走りだしていた。
そうして、話は冒頭に戻る。


自室のベッドに倒れこんで、モヤモヤする気持ちをどうにかしようとしたが、なかなか治まってくれない。

感情に任せたまま小さく嗚咽を押し殺して、暫く柄にもなく泣いていたが、それも数分の事だ。

最初にあったイライラはどこかに消え、不安が残る。音無が他の奴と仲良くするのは、やっぱり俺といても楽しくないのか?
俺はこんな性格だし、素直じゃないのもわかってる。
だから今まで仲良くできる奴なんていなかったし、ましてや恋人なんているはずもない。
音無はそんな俺といて楽しいのだろうか。

マイナス方向に突っ走っていく思考をどうにかしようとしたところで、


トントン、とドアをノックする音。
誰かは聞かなくてもわかった。


『野田』

音無がドアの向こうから声をかけてきた。

『俺が悪かった。ちゃんと謝りたいんだ、入っていいか?』

答える前に、ドアが開いた。
鍵かけてなかった、と今更後悔する。

こっちに近寄ってくる感覚がする。
ドアに背を向けていた俺は、音無がどんな顔をしているのかわからない。

「……」
「野田、ごめん」

扉越しじゃないから、声がさっきよりはっきりと聞こえる。

後ろから抱きしめられて、その温かさにまた泣きそうになった。
不安だった気持ちが埋められてゆく。

「…となし」
「大丈夫、ずっとここにいるから」

涙を拭って後ろを向けば、頭を撫でられた。
暫くそうして落ち着いた後、頭を撫でていた手がするりと頬に滑る。

「野田」

名前を呼ぶ声が妙に心地いい。
その声に促されるようにゆっくりと目を閉じた。


今なら素直に好きといえる

(「許すのは今回だけだからな」
「あぁ。大好きだよ、野田」
「………俺も好きだ」)



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