転生パロ。 未来捏造注意! 高校二年の夏。 日射しが地面を照りつける暑い日だった。 夜、バイトを終えた俺はいつものように自転車で家へと帰路を走る。 途中で、そういえばバイト始まる前からなにも飲んでないな、と喉が乾いている事に気付き、近くの自販機の前で自転車を止めた。 この辺は夜になると人通りが少ない。 週末である今日だって、多くて2、3人に会うくらいだ。 お金を入れて、コーヒーを買う。 喉を潤すのにはどうかと思うが、俺は気に入っている。 無糖だから苦いが、それも美味しさの一つだ。 もう夜も遅いし、早く飲んで家帰ろうと、早々にコーヒーを飲み干し、ゴミ箱へいれる。 と、その時だった。 前方から、男が歩いてきた。 歳はたぶん、俺と一緒くらい。 制服を見るに、俺とは違うが近くの高校だと思う。 そんな事は普段からよくある事だ。 それなのに。 まったく知らない奴のはずなのに。 何故か、妙な懐かしさが心に広がった。 それは向こうも同じなのか、こちらを見て立ち尽くしている。 目があったまま、離せない。 はくはくと、目の前の男が、言葉を紡ぐ。 「…音無?」 それは、俺の名前じゃない。 けれどその声は心地好くて、そう呼ばれるのになんの抵抗もなくて。 不意に頭にズキリとした痛みが走った。 『貴様か!ゆりっぺを侮辱し入隊を断ったという輩は!』 『ふざけるな!』 『…好き、だ』 『俺、は…貴様と、離れたくない…っ』 『音無』 『信じてるから…絶対』 走馬灯のように、記憶が次々蘇る。 死後の世界。死んだ世界戦線。 メンバー達の顔と名前が浮かんでは消えてゆく。 それが自分の記憶だと理解するのに、数十秒とかからなかった。 あぁ。 そうか、そうだった。 俺は―――俺は―――。 まっすぐと目の前の男を見る。 「野田」 「…っ!!」 最期に泣いたのと同じように、男――野田の瞳から涙が溢れた。 「音無…!!」 ぎゅっと抱き締めた体は、やっぱり懐かしくて、温かかった。 「…っどれだけ待たせるんだ…っ貴、様は…!」 「野田…!」 外というのも気にせず強く抱き合う。 嗚咽を押し殺して泣くのは、今ここにいるのは、他でもない野田、で。 「また会えたな」 「当たり前だろう…っ!」 60億分の1の確率で、また会えた。 それがどれだけ凄い事なのかはわからないけど、何より嬉しくてしょうがなかった。 「ひどい顔だな」 「貴様…の、せいだろう…っ!」 涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭ってやる。 今まで記憶を忘れていた自分は何をしていたんだ。 あれだけ忘れないって言ったのに。 絶対に会うと約束したのに。 俺は本当に馬鹿だな。 けれどそれはどんな形であれ、今果たしたのだ。 たとえ野田も俺も記憶を持っていなくても、こうして今思い出せたなら、それでいい。 「音無…よかった…」 「あぁ、約束したからな」 一つは守れなかったけど、と苦笑すると、それは俺もだ、と野田は言った。 「野田」 「…ん、」 最期の時みたいに、優しくキスを交わす。 ゆっくりと離れて、また視線を絡ませた。 「明日会えるか?」 「あぁ」 もっとずっと一緒に居たいが、ここはあの世界ではない。 学校だって行かなきゃならないし、家族だって家で待っているのだから。 赤外線でメアドを交換しあう。 幸い明日は土曜日。 バイトも学校も休みだ。 だから野田が用事なければ、会えるってわけだ。 今までの話は、明日じっくり聞くとしよう。 まだまだ時間はたくさんある。 俺がいるからには、理不尽な人生なんて送らせない。 「愛してる、ずっと」 「俺も、だ」 前の人生で出来なかった事も一緒にしよう。 この世界で、今度こそ、 「幸せになろうな、野田」 「もちろんだ、結弦」 二人で笑い合って、また新しい約束を交わした。 変わらないふたり いつまでも君と一緒にいよう 今度こそ、幸せな未来を現実にするために |