13話を凄まじく捏造。
こんなオチだったら幸せだな…!という妄想です。









この世界に来た者は、なにかしらの過去を背負っている。
そして、世界の理不尽さを、人生の呆気なさを、少なからず身を持って知っている。

だから、だからこそ。
俺の、ここに迷い込んでしまった俺のやるべき事は、これでよかったのだと思う。

倒れたゆりを保健室に寝かせ、他の戦線メンバーを、一人ずつ成仏させていく。
みんな最後は、泣いてる奴もいたけど、笑っていた。


俺達五人以外は後一人。
俺は一人で行くと日向達に言い、多分いるであろう―――この時は確信があったが―――校舎の外れにある河原へと向かった。



穏やかに風が吹く河原。
そこに恋人である、野田はいた。

「…貴様か」

俺の顔を見て野田はそう言い、それっきり黙ってしまう。
俺は野田に近づいて、その隣に立った。


「野田」
「なんだ?」
「もう思い残す事は、ないか?」
「…っ」

聞きたくない言葉だった。
ずっと一緒にいたい相手に、聞きたくない、言葉だった。
その答えが表すものは別れしかないから。

野田は俯いて言葉を発しない。
怖いに決まってる。

ずっと過ごしてきたここから。
たくさんの時間と経験を積み重ねたここから、消えてなくなってしまうのだから。

でも。
もう一度言おう。
この世界に来た者は、なにかしらの過去を背負っている。

そしてその過去、生前の記憶を受け入れ、報われ、しがらみがなくなった時。
ここを去らなくてはならない。
それが正しい形だ。

だから野田も。
もちろん、俺も。

ここから消えるのが、正しい事。



「俺は…っ」

ぽたっ、と地面に涙が落ちた。
それを見て、反射的に横にある体を抱き締める。

抱き締め返してくる腕の力は、普段から考えられない程弱々しいものだった。


「俺、は…貴様と、離れたくない…っ」
「野田…」

嗚咽混じりの声だけど、はっきり聞こえた。
きゅ、と抱きつく手に力が籠もる。

「貴様は、どうなんだ…っ!」
「俺は…」

少しだけ考えてしまう。
俺だってここに残りたい。
野田と一緒に居たい。
できる事ならずっとこの世界に居続けたい。
でもそれは間違った選択。


「野田と一緒にいたい、でも」

少しだけ離れた野田が、小さく息を飲んだ。

「ここに居るのは駄目だ」
「…ならば、おとなしく消えろと言うのか?」

「馬鹿みたいな話だけどさ、ここから消えたら、生まれ変わっても俺、野田の事忘れない気がするんだ」

野田が目を見開く。
俺はさらに続けた。

「気がする、は違うな、俺は絶対野田の事を忘れない。次の人生でも、絶対野田に会う」

再度野田を抱き締めて、ふるふると震える肩を宥めるように、頭を撫でた。

「だから、野田も俺の事覚えててくれるか?」

本当に夢のような話だけれど。
日向がユイに言ったように、俺達だってこの世界で会えた事が奇跡なのだから。
60億分の1の確率で。
次の人生でも絶対に会う。
野田はこくりと頷いた。

「…馬鹿が」
「野田に馬鹿って言われたら終わりだな」
「なんだと貴様…!」


笑い合って、顔を少し離し、額同士をくっつける。
涙を拭ってやる。


「野田」
「音無」

どちらともなく、唇が重なった。
ちゅ、と小さく音を立てて唇が離れ、そして。


「信じてるから…、絶対」
「あぁ、絶対だ」

強く頷く。
次の瞬間、野田の姿はなかった。
最後に、待ってるぞ、と聞こえた気がした。

さて、俺も逝かなきゃな。
もう思い残す事はない。
岩に立て掛けてあるハルバードを手にして、目を閉じる。

大丈夫。
この先何があっても、俺はここでの経験を、記憶を忘れない。

俺はそのまま、意識を閉ざした。

いつまでも君だけを

"愛してる"
その気持ちがある限り
絶対にまた巡り合える

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