NPCになった音無。 暗い。 「もう一人にしないから」 そう笑った音無。 あれは全部嘘でしかなかったのか? 結局、俺から離れていってしまうのか? ゆりっぺから、音無がいないと聞いた時、本気で焦った。 そして必死に捜して見つけた音無は、 .... ――音無ではなかった。 それは音無であり、同時に音無でない。 俺を見る瞳は、俺の知っている音無のものではなかった。 「すみません、どなたですか?」 まるで記憶喪失のように。 俺の事さえも何も覚えていないらしかった。 音無はNPCになった。 何も言えずに、俺は教室を飛び出していた。 足は勝手に屋上へ赴いていた。 約束をした場所。 大切な、二人だけの約束。 『野田、俺はずっとお前の側にいるよ』 『…あぁ』 そんな約束をした、場所。 その場に座り込む。 信じられない。 現実が、今目の前にある現実が。 きっとゆりっぺだったら、あるがままを受け入れろとそう言うんだろう。 でも俺は、何より辛かったはずの過去より、今が受け入れられなかった。 「音、無」 呼んでも、あの笑顔は返って来なくて。 虚無感が心を満たしてゆく。 結局何処にいても、死んだ後の世界にいたとしても。 世界はどうしようもなく理不尽で、 やっぱり変わる事など何もなかった。 こんなに近くにいるのに もう もう 俺の声は届かない |