いつもの鍛錬を終え、上着を着て音無がいた所へ行くと、音無は岩を背にスースーと寝息を立てて寝ていた。

音無は俺の恋人だ。
なぜ恋人になったかという話はまた今度にしておく。
話す気はないが。

そしてその音無は、何が楽しいのか知らんがよく俺の鍛錬を見に、立ち入り禁止のこの河原によく来る。
来る時間帯にもよるが、涼しい夕方などは時々寝ていたりする。

しかし寝ているといっても、俺が鍛錬を終える頃にはいつも起きていたから、こうして寝顔をまじまじと見るのは初めてだ。


「…音無」

起きる気配がないから、何となくそう言ってみる。
よく見るとやっぱり、かっこいい、とか思ったりしなかった事もない。

もう太陽は沈みかかっていて、辺りは暗くなり始めている。


「…る、結弦」

滅多に呼ばない名前。
なぜだか呼んでから激しく後悔する。

――何やってるんだ俺は!


自分が思ったより女々しい行動に出ていた事を後悔していると、ゆっくりと音無の目蓋が開いた。

「の…だ?」
「お、起きるのが遅いぞ貴様」

驚いて数歩下がる。
音無はすまん、と謝って、まだ眠いのか目元を擦りながら立ち上がった。


「過去、生きてた頃の夢を見たんだ」
「…そうか」

ここにいる、ということは少なからずとも辛い過去があるという事だ。
それは俺も勿論だが、音無は一体どんな人生を生きてきたのか。

気にはなったが、あまり詮索するのはよくない。
だから、俺は他の奴の事も大して知らない。


「ああ、見たくない、思い出したくないって思った時さ、俺を呼ぶ声が聞こえた」
「は…?」

まさか、と目を見開く。
そのまさかだった。

「野田だろ、俺を呼んでくれたの」
「……っ!」

ありがとう、なんて笑われたら、何も言えなくなるだろう!
忘れろ、とだけ言ってハルバードを持ちぐんぐんとスピードを上げて校舎がある方へ歩く。

ああもう、だからあいつは!!

その笑顔が

(かっこよかったなんて
言えるわけないだろう!)



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