いつものように野田と一緒に昼ご飯を食べ、鍛錬をする為に河原へ行く野田を見送る。 俺は少し用があった為、それを済ませて河原へ向かった。 途中、自販機でKeyコーヒーを買い、それを片手に道を歩く。 暫く行けば、見慣れた紫の髪が見えた。 はっ、ほっ、という掛け声と共に、軽々と持たれたハルバードが振られる。 その姿を眺めていれば、俺の気配に気付いたのかこちらを振り返った。 「よう、野田」 「…貴様か」 野田は不機嫌そうな声をしているが、実はそうでもない。 それを知ってる俺は特別何を言うわけでもなく、近くの岩に腰掛ける。 そのまま、野田は鍛錬を再開し、俺はそれを眺めながら買ってきたKeyコーヒーを開け、口を付けた。 穏やかな時間が流れるのも束の間――――。 うとうと寝かけていた時、頬にぽつりと冷たいものが降ってきた。 ぱちりと目を開けると、明るかった空が灰色の雲で覆われ、ぽつぽつと雨が降り始めたところだった。 野田は始めと変わらず、ハルバードを振っている。 多少の雨なら、と思ったが時間的にも夕立の様で、雨は強さを増していく。 「野田、雨!」 「別に気にしなくていいだろう」 「何言ってんだ、風邪――」 そこまで言って気付く。 この世界では誰も病まない、だっけ。 一瞬それならいいか、なんて思ったけど、俺達には感覚がある。 雨に濡れれば体が冷えるだろうし、それこそ鍛錬にだって支障が出るだろう。 やっぱり駄目だ、と俺は怪訝そうな顔で見てくる野田に近付き、ハルバードを持っていない方の手を取り、木の下に連れ込んだ。 「なっ、なにをする…!」 「雨に当たって体冷えたら大変だろ」 「だからこの世界では――」 「誰も病まない、だろ?でも感覚はある、そのせいで鍛錬に支障が出たらそれこそ本末転倒だぞ?」 野田には言葉では負ける気がしない。 そう丸め込んでしまえば、野田は悔しそうな顔をしつつもおとなしくなった。 雨はやはり先程より激しく地面を打ち付ける。 ザーザーと耳障りな音だけが周りを支配した。 「野田」 「なんだ?」 「コーヒー飲むか?」 「…いらん」 飲みかけのコーヒーを差し出せば、いらないと断られてしまった。 なんでだ。 「コーヒー飲まないのか?」 「飲まない事はないが…あまり好きではない」 その答えに、ふと思いついた事を聞いてみる。 「苦くて飲めないとか?」 「…!!」 冗談のつもりで言ったのだが、当の本人は顔を赤くして黙り込んで、口を開いたかと思えば「悪いか…!」とこちらを睨んできた。 なんだ、この可愛い生き物は。 「可愛い」 「は…?」 「いや、可愛いなと思って」 本音を口に出せば更に顔を赤くして、野田は顔を俺とは反対に背けてしまった。 「野田」 「…もう黙れ」 恥ずかしいのかそう言ってくるが、俺は構わず後ろから抱きついてみる。 驚いて振り返った野田にすかさずキスをして、ぎゅう、と雨で冷たくなった体を温めるように強く抱き締めた。 冷えた肌に温もりを 冷たい雨の中でも 君がいれば こんなにも温かい |