池袋某所。
俺は自宅への帰路を歩く。

時刻は午後一時。
今日は午前中で仕事が終わり、久々にのんびりとした時間を過ごそうと、寄り道せず家へと直帰していた。


煙草を吸いながら、歩き慣れた道を行くと、すぐに大して遠くない家へと着く。
短くなった煙草を携帯灰皿に押しあて、鍵を開け、ドアを開いた。



「おかえりー」


普段聞こえないはずの声が聞こえ、しかしその声の持ち主に思い当たる人物は一人しかいなく。

リビングのドアを開けると、やはりそこにはいつもの黒いジャケットを着た臨也がソファーに座っていた。


「もー、遅いよシズちゃん、待ちくたびれちゃった」

どう考えても不法侵入だが、何を言おうと何かと理屈を付けてくることを経験上知っている為、これについてはもう諦める事にする。


けれどとりあえず一つだけ気になる事を聞くことにした。


「…なんで手前がここにいるんだよ?」
「なんでって、俺達恋人でしょー?会いたくなったから会いにきただけだよ」


あたかもそれが自然のように即答し、笑う臨也に、少しだけ嬉しいと感じてしまった俺はもう駄目なのだろうか。

リビングのドアの前に突っ立っていると、臨也がこっち、と手招きをしてきた。



「一緒に昼寝しない?ここの寝室ってさ、昼間日当たりよくて気持ちいいんだよね」
「…そうなのか?」
「そうなのかってシズちゃん、ここ自分の家でしょ?」


そう言われても本気で知らなかった。
昼間は家に居る事はあまりないし、どちらにせよ昼寝したりするのは基本的にソファーの上だったからだ。

「というわけで昼寝しよう、シズちゃん」

ソファーから立ち上がった臨也が俺の手を引き寝室へと引っ張る。


昼寝は嫌いじゃないし、臨也といるのも嫌ではない。
それに、こんな風にゆっくりするのも悪くないだろう。

俺はおとなしく、臨也についていった。



ジャケットを脱いだ臨也は、ぼふりとベッドへ体を沈め、はー、と息を吐いた。

「んー…」

ぐーっと伸びをする臨也の横に、俺も倒れ込む。
太陽の光が体に当たるのが気持ちいい。

そう大きくはないベッドに大の男二人で寝ようと思えば流石に狭い。
暫くぼーっとしていると眠気に誘われ、うとうとしてくる。

俺に背を向けて寝ている臨也に、ぼんやりとした思考で抱き着いた。




「…シズちゃん?どうしたの」
「眠い…寝る」
「え、うん。いいけどちょっと待って」


そう言うが早いか、臨也は器用に俺の腕の中で体を回転させた。
背中に腕が回り、ぎゅっと抱き締められる。


「こっちの方がいいでしょ?」
「…ん、おやすみ、臨也」
「おやすみなさい」

向かい合って抱き締め合い、その心地好さに余計眠くなって目を瞑った。


夢でも君に、


きっと
会うのだろう。
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