世界から零れ落ちた黒猫は


私の名前は音宮 春歌

魔法使いの家系に生まれたことで、小さい頃から魔法が使えるという、普通の人とはちょっと違ったタイプの人間。髪の色は普通に黒。だけど瞳の色は片方づつ違う、深い深い海の色と澄んだ空の色。何でも瞳の色は生まれた時の魔力の強さで変わるとか。因みに私の瞳はお母さん曰く、「まぁまぁ強い方なんじゃない?」らしい。…とりあえずまぁ、私はそんなただただ魔法が取り柄の女の子なんです


「それで此処は何処なんだろう。」

私は雨の雫をしとしと受け止め流れる川を前に、箒と杖、そして拡張魔法をかけている黒の小さなショルダーバッグを持って佇んでいた。今いる場所はどうやら河原の様な場所なわけで、何故に私がこんな所にいるかと言うと、正直それは私が聞きたいくらいだ。多分、私は自分の寮であるグリフィンドール寮にいたような気がするんだけど…いやでも、それすらもあやふやなんだけどね。何か此処に来る前の記憶に霧がかかってるみたいな…とりあえずよく覚えてないのが答えなんです

ふと空を見上げてみれば、さっきまでは雲一つない夜空が広がっていたのに、今ではどんよりと重たい雲に月は隠れてしまって、雨はだんだんと雨足を早めていっている。そしてそんな雲を縫うように空にはたくさんの船やUFOが飛び交っていて、雲の間からはチカチカと赤や緑の光がもれて……

「………………あれ?」

何か今あってはいけない様な単語を言っちゃった様な気がするんだけど…あはははは。いやいやないない。私はコシコシと目を擦ってまた空を見上げてみた

「そんな、UFOや船がそう空なんか飛んでるわけ………あるんですね…。」

だけどやっぱり空にあるのはUFOや船なわけで、しかも数が多いからまた質が悪い。てかUFOって未確認生物じゃん。船って空じゃなくて海を走るもんじゃん。何、普通に空なんか飛んじゃってんの!?

「…何か……とりあえずどっか雨宿りできるとこを探そう…。」

私は雨除けのためにローブについているフードを眼深に被って、軽い傾斜になっている土手を滑らないようにとゆっくり登った。そこで初めてこの場所での町並みを見た。江戸時代の様な平屋の建物に、舗装されていない土の道。少ない街頭に闇は広がっていて、私のいた場所とはまるで月と太陽ほどの差。それに道行く人々は私のいた所では滅多に見ない着物を着ているし、中には猫や蛙の顔をした人々も混じっていて…………

「…だから何でそうなるのよ。」

私はまた出てきたありえない単語に頭を抱えた。いやいや、だって猫や蛙って可笑しくない!?しかも何か人間みたいに服着て、傘も差してしかも二足歩行で歩いてるし

「………あぁ、そうか。これって夢なんだ。」

本当に今更だ。ホグワーツにいたはずの自分が行き成り知らない場所にいるとか、UFOが空を飛んでるとか、蛙が歩いてるとか、もっと早く気付くべきだったんだよね。それにあまりにも現実味なさすぎて逆に笑えてくる。もうこれ夢だわ夢に決まってるわ。はい、夢に決定ー。私は雨ですっかり重たくなってしまったフードを脱いで、悩んでいた自分に声をあげて笑った。道行く熊や兎が凄い目でこっちを見てるけど気にするもんか。これは夢なんだから、頭が可笑しい人って思われても別に平気だもんね。さてと。それなら目が覚めるまで探検でもしてみようかな。とりあえずこのまま真っ直ぐに歩いてみようと、私はあてもなく歩きだすことにした


世界から零れ落ちた黒猫は
(夢に迷い込み光を見つける旅に出る )

バッグに拡張魔法をかけると、どんなに大きな物だって入れることができるんです

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