どうか待っていてね


時刻は19時。ただ今をもって初仕事、無事に終了いたしました!

「本当に送っていかなくて大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですよ近藤さん。万が一何があっても私、逃げ足だけは自信があるので。」

ホグワーツで悪戯仕掛け人の一員として過ごしてきて5年。悪戯をしては素早くその場から逃げ去る。何度、追いかけてくるフィルチをこの足で撒いてきたか。だから悪戯仕掛け人の中で、罰則を受けるのは私とリーマスが並んで少なかったと思う。リーマスの場合は逃げ足が早いと言うよりも、シリウスを犠牲にして逃げていたと言う理由がしっくりくるけど。「だから大丈夫です。」と言えば、近藤さんはそれでも「何かあったら、すぐに電話するんだよ!?」と心配そうに言っていた。今日、初めて会ったというのに、近藤さんは実の娘かの様に接してくれる節がある。それが何だか嬉しくて、私はえへへと笑った

「では近藤さん、土方さん。私はこれで失礼します。明日も宜しくお願いします。」

土方さんの「気をつけろよ。」という言葉を最後に、私は新選組屯所を後にした


「星が綺麗だなー。」

空を見上げながらトロトロと歩く帰り道。UFOや船という異常な物を覗けば、この江戸の町の夜空も私のいた場所と何ら変わりはなかった。歌舞伎町のネオンで、星の輝きは少し薄くなってしまっているけど、それでも綺麗だった

「………皆、心配してるかな…。」

空を見上げて思うのは、友人たちの姿。突然いなくなった私を、皆は探してくれているのだろうか。心配してるのかな、それとも怒ってるのかな…。「おやすみ、また明日ね。」そう言って別れたのに「おはよう。」は伝えられなかった。また言えるかな、帰れるのかな…。

「会いたいよ…。」

呟いた言葉が皆に届けばいいのに。私は此処にいるよ。元気に生活してるよ。それにね、この世界でとても素敵な人たちに出会ったんだよ。みんな面白くて、親切で、凄く優しくしてくれるんだよ。だから私は大丈夫。皆の元へ帰るまで私は此処で精一杯、生きてみせるから。きっとすぐにまた会えるよね。また再開するその時まで、どうか…

見上げた夜空はやっぱり綺麗だった


「ただいまーっ!」
「春歌ちゃん、お帰りなさい!」
「お帰りヨ!」
「わんわんっ!」

万事屋へと無事に帰宅すれば、元気よく新八くんと神楽ちゃんと定春くんが玄関までお出迎えをしてくれた。にこにこ笑顔で迎えてくれる2人と1匹を見てると、疲れなんて吹き飛んで一気に元気になれた気がする

「お出迎えありがとう。…ん?何だか凄く良い匂いがする!」
「ちょうど今、お夕飯の支度が出来たとこなんだ。春歌ちゃん、お腹空いてるでしょ?」

キッチンから香ってくる美味しそうな匂いに、くんくんと鼻を鳴らせば、新八くんは「もう準備できてるよ。」と笑う。それに少し恥ずかしくなって「凄く空いてる!」と誤魔化す様に私も笑った

「私もお腹ペコペコで、お腹と背中がアロンアルファネ!」
「何だよアロンアルファって。それもう飯食っても、くっついたまんまだよ。」
「あ、銀さん。」

神楽ちゃんの発言にツッコミを入れようと思った矢先、リビングからのそのそと出てきた銀さんに先を越されてしまった

「銀さん、ただいま。」
「おう、お帰り。と、お疲れさん。」
「ありがとう。」

凄くアットホームだ。娘の帰宅を迎えてくれるパパに妹、私と新八くんは同い年だから…双子かな?って、このポジション設定だとママがいないぞ。あ。定春くん?いや、定春くんはペットだ。何てどうでもいいことばかり考えていると、神楽ちゃんはもう限界という風に騒ぎだした

「もう私、お腹減ったヨ!さっさとご飯にするヨロシ眼鏡!」
「おィィィ!何、人のことパーツで呼んでんだよォォォ!」
「いいからダメガネ、さっさとしろヨ。」
「格下げェェェ!?」

ぎゃーぎゃー言い合いをしながら、居間へと向かった2人と1匹を見送って、私も中に入ろうと履物を脱いだ

「どーだった?」
「…っ!」

…び、びっくりした。皆もう居間へと行ってしまったと思っていたから、私は不意にかけられた声にドキっとした。振り返れば銀さんは、腕を組んで柱に寄りかかったまま、此方を見ていた。そこで銀さんに質問されていたことを思い出した。どーだったって何のことだろう?疑問に思って「何が?」と問おうとする前に銀さんは「仕事。」と口にした

「何か嫌なこととかされてねーか?アイツら人に嫌がらせすんのにかけては天下一品だからな。」
「大丈夫だよ。皆、凄く優しくしてくれてね。近藤さんなんて、私のお父さんになったみたいに接してくれるんだよ。」
「アイツは父性本能にでも目覚めたのかよ。」

くすくす笑って答えれば、銀さんは一つ溜息を吐いて「頑張れよ。」と言って、そのまま居間へと行ってしまった

「…うん、頑張ろう。」

ポツリと呟いた決心は、ストンと私の中に落ちてきて、しっくり心の中に広がった。仕事だけじゃない、たくさんのこと。いつか皆に会うその日まで、頑張らなくちゃ。胸を張って「ただいま」を言うために


どうか待っていてね
「って、あーっ!もう食べてる!待っててくれてもいいのに!」
「来るのが遅い春歌が悪いヨ。所詮、世の中は弱肉強食ネ。」
「大丈夫だよ、ちゃんと春歌ちゃんの分は別にしてるから。」
「まじか!グッジョブ眼鏡!」
「おィィィィ!お前も何サラッと眼鏡呼びしてんだよォォォ!」
「いい加減にしろォォ!お前らぎゃーぎゃー煩いんだよォォ!」


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