邪魔だなー


「で、此処が台所になります。春歌ちゃんには此処で朝食と夕食の用意をしてもらうことになるので。」
「山崎さん、これ過重労働すぎやしませんか?」

只今、山崎さんに屯所の案内と仕事内容を教えてもらってる訳なんだけど、炊事に洗濯に掃除にお使いに、マヨネーズの大量買い出し……何だこれ。特に最後の奴、何だそれ。1人や2人分ならまだしも、新選組には何人の男共がいると思ってるんだ!?これは明らかに殺される!労働基準法に違反するぞ!

「はは、だよね。大丈夫、僕も出来るだけ手伝うからさ、一緒に頑張ろう。」
「や、山崎さん…。」

この鬼畜が集まる巣屈の中に舞い降りた天使だ!天使がいらっしゃる!初めて会った時、心の中で何だこのジミーは…とか思って本当にゴメンなさい!私はこの時、山崎さんの後ろに後光が差しているのを感じた。…感じた…けどそれは現実で、「げ!?」と思った時には既に遅し

ドッカーーン!!

けたたましい爆音と共に、山崎さんが空の彼方へ吹っ飛ばされていってしまった。飛んで行った山崎さんへ手を合わせてお祈りをすれば、未だたち込める煙の中から、バズーカ―を肩に背負った沖田さんが、やる気なさそうに歩いてきた

「沖田さん、いきなりは危ないじゃないですか。」

「私に当たったらどうするんですか。」と言えば、沖田さんは「そんなヘマする訳ねェだろィ?」なんて自信満々に言ってきた。その自信は何処からくるんだ

「…まぁ、良いですけど……沖田さんのお陰で掃除のしがいが出ましたよ。」

嫌味たっぷり、チラリと焦げや煤だらけになった廊下に視線をやれば、「感謝しなせェ。」なんて言う腹黒ドS王子。言い返したら後が堪らなく怖いので、私はぐっと我慢して掃除道具を取りに物置きへと移動した。既に山崎さんに屯所内を案内してもらった後だったから、迷うことはない。だけど、そんな私の後ろをただ黙ってついてくる沖田さん

「何か用事ですか?」
「何もありやせんよ。」
「……そうですか…。」

それから私は無視を決め込んで掃き掃除、雑巾がけ、障子の張替。気になるところの掃除を隅から隅まで、徹底して取り組んだ。やるからには、とことんやる!それが私のモットーなのですえっへん!チラリと沖田さんを見れば、何をするわけでもなく、あのアイマスクをつけて、ゴロリと縁側に寝転がっていた。おい、仕事はどうした仕事は。とりあえず今日出来るとこまでの掃除を済ませてしまえば、時計の針はすっかり17時を指していた。夕食の準備をするために私は、出してきた掃除道具を片付けて急いで台所へと駆け出した。…かと思えば、後ろからのそのそ付いてくる沖田さん

「……あの…沖田さん…何か…?」
「何でもありやせん。」
「…そ、そうですか…。」

気になる!凄い気になる!何なの!?沖田さんは台所へ向かう私の後ろをただ黙ってついてくるだけ。だったら少しくらい手伝えよ。なんてことはもちろん言わない。私だって命が惜しいもの。……しっかしこの人…


邪魔だなー
(心の中で呟いた筈なのに、またしてもどつかれた)

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