光で溢れてるから
「春歌、行くヨ!」
「銀さん行ってきます!」
「気をつけて行って来いよ。」
「銀さん、お金が入ったからってくれぐれもパチンコとかには行かない様にしてくださいよ!」
「…へーい。」
そう、しぶしぶ応える銀さんに新八くんはため息を吐きながらも、行ってきますと言って万事屋の扉を閉めた。さぁ、かぶき町へと出発だ!
それから、半分好奇心、半分ピクニック気分でかぶき町に出てきたんだけども、やっぱり不思議なものでごった返していて、私はキョロキョロと忙しなく辺りを見回していた。そのせいで人にぶつかるは、2人とはぐれそうになるはで大変な思いをすることになって、今では、神楽ちゃんと手を繋いで歩くことになってしまっていた。こんなに自分よりも年下の女の子に面倒見てもらう私って、どうなんだろうか…
「とりあえず先に服から見ましょうか。」
「なら、あそこの店に入るアル。」
神楽ちゃんが手を引っ張って、早く早くと入っていくのは着物のお店。店内には若い子たちがいっぱい居て、結構人気のある店だとすぐに分かった
「これだけ、たくさん着物があると目移りしちゃいますね。」
「そうですね。僕も着物にあまり詳しいわけじゃないんですけど、」
「春歌!これ絶対に春歌に似合ってるネ!」
そしていち早く店内に入って行った神楽ちゃんが手にして戻ってきたのは、淡い水色の生地に蝶が描かれている綺麗な着物
「わぁ、凄く可愛いです。」
「本当、春歌さんに絶対に似合いますよこれ!」
「…そ、そうかなぁ。」
「絶対にそうネ!早く着てくるヨ!」
そうやって無理やり試着室に押し込まれてしまった。しかしそこでふと気づいたけど私、1人で着物、着れないや。2人に着方を教えてもらおうと思ったけど、神楽ちゃんと新八くんも遠くで他の着物を見ていて結局、店員さんに着せてもらった。着物の1つも着れないのかと凄く不思議がられたけど、嫌な顔1つせずに教えてくれた店員さんは、接客業の鏡だと思った。だけど、これからはこれを1人で着れる様にならなくちゃいけないんだよね…なんて考えたら毎朝、大変だな…って少しだけ憂鬱になった
「えーっと、どうかな?」
「わぁ、春歌さん凄く似合ってますよ!」
「流石、私ネ!ごっさ綺麗ヨ!」
着付けも終って試着室を出れば、2人は目をキラキラと輝かせて感想をくれる。着物はよく分からないけど、どうやら2人は気に入ってくれたみたいだ。それからまた3人でもう1着選んで、とりあえず2着を買うことにした。だけど着物を持ってレジでお会計を済ませた時に、たくさんの視線をひそひそと話し合う女の子たちから感じ、何だ?と思った時にふと他の子たちの会話が耳に届いた
「ねぇねぇ、あの子の目の色って可笑しくない?」
「両目の色が違う青色なんてさ。」
「天人かな?」
「でも、人間そっくりじゃない?」
私、何か言われてない?人間かだとか、目の色だとか…私はそれを聞いて素直に腹立たしいと思う気持ちを感じた。そこで彼女たちの間に割って入って、私は天人じゃないし目の色も青じゃなくて水色と群青色なんだって割り込みたかった。だけど、結局その行動は取れないまま終わった。だって
「お前らさっきからコソコソコソコソ煩いアルっ!」
「あんたら、春歌さんのこと悪く言って、いい加減にしろよ!」
「それに春歌の目は、お前らの汚い目なんかよりずっと綺麗ネ!」
そうひと際、大きな声で怒鳴り上げる神楽ちゃんと新八くん。私はただ、驚いてその光景を眺めるだけ
「春歌、こんなとこさっさと出るアルヨ。」
そう言って、最初に来た時と同じように私の手を引いてお店を出る神楽ちゃんと新八くん。私は、ただ素直にその手に引かれてお店を後にすることしか出来なかった
「あいつら、ごっさムカつくネ。」
「そうだよね。春歌さんのこと何も知らないくせにコソコソ話して。」
「やっぱり1発、殴るべきだったアル。」
私以上に悔しそうにする2人を見てたら、私はさっきの嫌な気持ちも全部無くなってしまって、代わりにだんだんと頬が緩んでしまうのを感じる。だって不謹慎かもしれないけど、これって凄く幸せなことじゃない?私のことで、2人はこんなにも怒ってくれているんだから、素直に嬉しいって気持ちが今の私に当てはまった
「神楽ちゃん、新八くん私のために怒ってくれてありがとうございました。」
「お礼を言われるようなことじゃないですよ。」
「そうヨ。私たち正直に言っただけヨ。」
「でも嬉しかったですから。ありがとう。」
そう言って私の手を握っている神楽ちゃんの頭を優しく撫でる。それに神楽ちゃんは笑って
「春歌の目は空と海の色と一緒で綺麗ヨ。私、春歌の目が大好きアル!」
「僕も、春歌さんの目は凄く澄んでいて綺麗だと思いますよ。」
「…あ、ありがとうございます。」
面と向かって言われれば、凄く恥ずかしくって今の私の顔は真っ赤に違いないだろう。そして神楽ちゃんは「それと…。」と言葉を続ける
「敬語はいらないネ。春歌はもう万事屋の家族なんだから、必要ないアル。」
最初は流れで使ってしまってたけど、そう言われてしまえば止めざるをえないではないか。私もそんな神楽ちゃんと新八くんに、笑顔を返して
「うん!分かった。」
「上出来ネ!」
そうやって敬語を止めれば、満足そうに笑ってくれる2人。言葉、たったこれだけのことなのに、皆にまたぐっと一歩近づけた気がして嬉しかった。ふふっ、何だか私、今日ずっと嬉しかったしか言ってない気がするや
「じゃあ、次は私のとっておきの場所に春歌を連れて行くヨ!」
「宜しくね神楽ちゃん。」
「かぶき町を周るとなると時間がいくらあっても足りないからね。早速行こっか。」
それから私は行きと同じ様に手を繋いできた神楽ちゃんの手を握り返して、3人で並んでまだまだ未知なかぶき町の町へと足を進めた。本当に優しくて暖かくて、私にも家族はいるけど、何故かこの気持ちがとても懐かしく嬉しく感じたんだ
あれから神楽ちゃんと新八くんは、公園や大江戸スーパー。キャバクラや駄菓子屋さん。色んな所を案内してくれた。本当にかぶき町の町は濃くて、やっぱり1日じゃ周ることは出来なくて、また一緒に探検しようねって2人と約束をした
「銀さん、ただいま戻りました!」
「おう、お帰り。どうだった?」
「あの…、えっと…。」
万事屋に帰ると、迎えてくれた銀さん。銀さんの問に応えようとした時、私はふとさっきの神楽ちゃんの言葉を思い出した
「敬語はいらないネ。春歌はもう万事屋の家族なんだから、必要ないアル。」その証拠に、私の横で神楽ちゃんはニコニコと笑みを浮かべている。だから私もそれに応える様に、笑顔を向けて
「…あのね、凄く楽しかったよ。銀さん色々ありがとう。」
「………!」
私がそう言うと、銀さんは驚いたように目を見開いていたけどそれは一瞬で、すぐにいつもの様にふっと笑うと
「着物似合ってんな。」
と言って、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。「そうかな。」と言えば、銀さんは「おう、めちゃくちゃ似あってんぞ。」と笑い返してくれた
光で溢れてるから(さぁ、新しい日々の始まりだ)
この時代のオッドアイは異端だったんじゃないかなぁ…と
と言っても、水色と群青色っていう分かり辛い違いなんですけどね![
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