曇天の空の下


所変わって万事屋の事務所へと移ってきたわけですけど、座ったソファの正面には銀さんと眼鏡くんが座っていて、私の隣にはなんとも可愛らしい女の子がちょこんと座ってる

「遅れましたが私、音宮 春歌って言います。この度は助けてもらったにも関わらず、手当までありがとうございました。」
「僕は志村新八です。手の傷も痕が残らない様なので良かったです。」
「私は神楽ネ。以後宜しくするヨ。」
「宜しくお願いします!」

とりあえず私は、正直に自分に起きたことを銀さんたちに話そうと思った。どれだけ考えても自分ではどうしようも出来ないし。魔法の使えない今、衣食住の確保だって帰ることさえも出来ない。誰かに頼らなければきっと生きていけないだろう。私は覚えていること全てを最初から話した。全てと言っても勿論、魔法については一切口にしない。あの時は気が動転していたから、銀さんの前で箒に乗るなんて突飛な行動を起こしてしまったけど、そもそも魔法界のことはマグルに知られてはいけないのだ。この世界はどうかは分からないけど、魔法が使えない今、どうせ言っても信じてはもらえないだろうし…。とりあえず私は、気づいたらあの場所にいたこと、おそらく此処は自分のいた世界じゃないこと、そして出来れば此処に置いて欲しいなーなんてことを仄めかしてみたりした。それなのに銀さんときたら

「とりあえずお前、あれだ。医者に診てもらってこい。」
「もっとオブラートに包んでください。」
「大方あれだろ?母ちゃんとケンカして家を飛び出してきたってとこだろ?万事屋だってな慈善事業じゃねぇんだよ。そういうのは警察にでも行って助けてもらえ。」

「分かったら家出娘はさっさと家に帰りなさい。」

と私を軽くあしらう銀さんに

「ちょっと銀さん言い方酷いですよ!?」
「それだから銀ちゃんは女にモテないネ。」

なんて2人が言い返すもんだから、軽く抗争が勃発しそうな勢いになっている。……まぁ、でも確かにそうだよね。こんなあり得ない話、私だって未だに訳が分からないんだから、他の人がはいそうですか。って簡単に信じてもらえるはずがないよね…やっぱり自分で何とかするしか無いのかな…でもきっと探せば住み込みのバイトだってあるはずだし!

「…すみません、何だか混乱させちゃったみたいで。…さっきは看病してくれてありがとうございました。」

これ以上、迷惑をかける訳にもいかなくて、それじゃあと言って私は万事屋を後にした。別にあの可愛い神楽ちゃんが、凄い勢いで銀さんに目潰しをしたから、怖くて逃げてきた訳じゃない。断じて。また、万事屋には改めてお礼に来させていただこう。玄関を潜れば、後ろで神楽ちゃんや新八くんの何か言っている声が聞こえたけど、ザアザアまた振り出した雨の音に混じって、ちゃんと聞くことは出来なかった


曇天の空の下
(銀さん…お大事に)

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