就職先が決まりました


「ということで、私そろそろ帰りますね。」
「つれないねィ。折角良い情報教えてやったってのに。」
「でも今日は渡る世間は鬼しかいねー見なくちゃいけないんで。」
「お前、それ見てねぇだろ。」
「何で知ってんの!?」
「んな面してまさァ。」
「どんな面だよ!」

このサディスティック星の王子と話せば話す程、不幸になる様な気がするのは、きっと気のせいじゃない筈だ…ぶっちゃけたお話なんだけど、新選組で女中として働くっていう話、ぶっちゃけてしまえば断りたい。正直に言ってしまえば、激しく願い下げだ。この短時間でさえ、沖田さんの相手をするのに、精神的疲労と過度な突っ込みによる身体の痛みが増していくというのに、それが毎日となってみろ。私は3日ともたずに死んでしまうだろう。だから

「素敵なお話なんですが、お断りします。」
「何ででィ?」
「ほら、私家事とか苦手だし!」
「嘘付くな。得意って面してますぜィ?」
「だから、どんな面なんだよ!」

あ、何か本当に疲れるんですけどこの人。新八くん、今更けどツッコミ上手な貴方のことちょっと見なおしました

「別に悪い話じゃないと思いますぜィ。」
「確かに良い話ですけど。私の精神と体力的問題と言いますか…。」
「あんたなら大丈夫と思うけどな。案外、大した度胸も持ってるみたいだし。」
「は?」
「お前、あの天人の急所蹴り上げようとしてただろィ。」
「……………あは。」

見ていらっしゃったんですね。そう言えば、沖田さんがバズーカ−ぶっ放す前に、あの兎天人から逃げるため、急所蹴りあげようとしてたんだっけ

「あれは、…ちょっと身の危険を感じたと言うか何と言うか…。」
「まぁ、新選組の女中になるとなりゃぁ、それなりに度胸のある奴じゃなきゃ長続きしないんでさァ。」

だから、こんなにも勧誘してくるのか?それなら、あの時に大人しくか弱い女の子を演じておくべきだった!

「ですけど…えっと…。」
「日給1万でどうですかィ?」
「宜しくお願いします!明日からでも宜しいですかね?」

あぁぁぁ、何て現金な女なんだ!でも、日給1万だよ!?あり得ないよね、こんな素晴らしく美味しいお話!何処にも転がってないからね!?だから私の判断は間違っていなかったはずだ

「じゃあ、明日から頼みまさァ。」
「了解しました沖田隊長!!」

間違っていなかったはずだよね?それなのに


「はあぁぁぁ!!??新選組で女中するうぅぅ!!??」
「だめアルよあんな狼だらけの巣窟で働くなんて!春歌が穢れてしまうね!」
「そうだよ!何されるか分かったもんじゃないからね!?」
「ダメったらダメだからな!断ってきなさい!」

何で土下座させられて、3人から説教もとい理不尽な個人的感情を押し付けられているのだろう。どうやら聞いた話によれば、万事屋と新選組は犬猿の仲。とてつもなく不仲らしい。だけど此処で引き下がる訳にはいかない。だってこれからの万事屋の生活がかかっているのだから!

「でももう、他に働く所が無いんですよ!?」
「なら無理に働かなくて良いからよ。」
「そうだよ!春歌ちゃんは家事までしてくれてるんだから!」
「そうネ!寧ろ本当に働かなくちゃいけないのは、このチャランポランネ!」
「銀さん、ちゃんと働いてるんですけどォォォ!?」
「自営業という名のプー太郎だろうがよォォォ!!」

そんな銀さんに飛び蹴りをかます神楽ちゃんに、吹き飛び壁にめり込む銀さん。おっと、何だか話がずれてきたぞ。まぁ、それはそれでもう良いんだけど

「とりあえず!俺はあんな税金泥棒のとこで働くなんて反対だからな!」
「春歌ちゃん、あんなむさ苦しい所、何かあってからじゃ遅いんだからね?」
「私、春歌が心配ネ…。だからあんな所で働いて欲しくないヨ…。」
「………み、みんな…。」

俯く2人や、涙を目いっぱいに浮かべる神楽ちゃんを見てたら、何だか自分が恥ずかしくなってしまった。私は何を意地になっていたんだろう。皆がこんなにも心配してくれているんだ。皆のために働くのに、皆が反対する場所で働くのはあまりにも申し訳ないじゃないか

「そっか…皆がそう言うなら仕方ないよね。日給1万は美味しかったんだけど…断ってくるよ。」

それに本当は、こんなに心配してくれることが嬉しかったりするんだよね。だって本当の本当に、皆は私のことを大切に

「え、そうなの?日給1万だったの?」
「春歌ちゃん、あんまり無茶しすぎないようにね。」
「私、初任給のプレゼントは酢昆布が良いアル。」

……思ってくれてる、って…あれ?

「明日からだっけ?しっかり働いて来いよ!」
「粗相の無い様に頑張ってね!」
「明日はお見送りするヨ!!」

あ、何だか涙が出てきそうだ…


就職先が決まりました
(この行き所の無い思いは、仕事に打ちつけようと思いました)

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