1日の始まり


ピチパチ鳴く鳥の声で目を覚ませば、視界いっぱいに白くて巨大な生物。それが昨日、紹介してくれた万事屋のマスコットキャラ、定春くんだと認識する前に、私の口からはにマンドレイクに負けず劣らない悲鳴が飛び出していた

「ぎぃゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

可愛い物好きだけど、どうか不意打ちだけは勘弁してください

「おはようネ、春歌!」
「おはようございます、神楽ちゃん。」

あれから定春くんによって江戸中に聞こえるんじゃないかという悲鳴をあげた私は、見事に神楽ちゃんと銀さんを一発で起こし、本日は万事屋に泊まっていたという新八くんに至っては「Gですか!?」とジェットスプレーを携えて駆けつけてくれた。大変申し訳ないです…。その朝のひと騒動な後、私は銀さんに借りた甚平から元の制服に着替えをすませて、何だか美味しそうな匂いが漂う、居間へと向かった。そこにはもう、新八くんも神楽ちゃんも銀さんも揃っていてどうやら私が最後だったようだ

「春歌さん、もう体調は大丈夫ですか?」
「あ、はい。ぐっすり眠ったら治っちゃったみたいです。」
「んーもう、熱はねぇみたいだな。」

「ま、あんな女子力の欠片もねぇ、悲鳴を上げれるんだから大丈夫だろ。」そう言って私の額に手を当てて熱を測った銀さんは、軽くペチっと私の額を叩いた。む、失礼な。

「春歌、ご飯食べたら今日はかぶき町探索に行くネ!」
「かぶき町探索?」
「はい、春歌さん此処初めてでしょ?それに、これからの生活用品とかも揃えなくちゃいけませんし。」
「何だか、いろいろすみません…。」
「んなこと気にすんなっての。言っただろ?お前はもう万事屋の一員なんだから、変な気とか使わねぇんで良いんだよ。」
「…ありがとうございます。」

本当に此処は暖かい場所だな。それに凄く気持ちがくすぐったくなって、嬉しくて少しだけ恥ずかしくなる。だけどそれが凄く心地良くも感じる

「それに春歌の服も、どうにかしないといけねぇしな。」
「そうですね。こっちだとその服装は目立ちますからね。」
「はっきり言えばコスプレネ。」
「…コスプレって…。」

私が今、来ている服は白シャツに襟元に巻いている真紅と黄金のネクタイ。そしてホグワーツ指定のグレーのニットとプリーツスカート、確かに着物が主流の此処では、あまりにも浮いていて不自然だったりする。あれ、でも今の今まで忘れてたけど私、お金持ってない。愛用のショルダーバッグには金貨に銀貨は勿論、換金出来るであろう物だってたくさん入っている。けど魔法が全く使えない今、それはただの底の浅いショルダーバックになっていて、ひっくり返しても1シックルすら落ちてこなかった

「…その、着物は大丈夫です。お恥ずかしい話なんですが…私、その…お金を持って…なくて…。」

言葉にすれば更に申し訳なってきて、膝の上に置いていた指はスカートの裾を握ったり離したりを繰り返していた。家に置いてもらう身なのに、銅貨1枚すらも払えないなんて…。そんな私に、銀さんは悪戯を思いついた時の様な表情でははーんと笑って、机の引き出しをごそごそと漁ってから戻ってきた

「春歌ちゃん春歌ちゃん、これなーんだ。」

そう言った銀さんの手元には分厚い茶色の封筒

「……それ…。」
「ご名ー答。」
「実は一昨日、お金持ちのご婦人から依頼を受けて、謝礼としてこんなにお金を頂いたんですよ。」
「羽振りの良い女だったネ。」
「だから金はあんだよ。ま、どうせ給料から天引きするけどなー。」
「天引きも何も私ら給料なんて貰ったことないヨ。」

「こないだお前!酢こんぶ買ってやったろーが!」

そう言いいながら銀さんは、お金の入った財布を新八くんに渡す

「でも、そんな!私、置いてもらってご飯まで食べさせてもらってるのに、それに服まで買ってもらうなんて…っ!
「だーかーら、言ったろ?」

銀さんは大きくため息を吐いた後に、ビシっと私に向けて人差し指を突き出した

「お前はもう万事屋のメンバーだって。他人じゃねぇんだよ。」
「…銀…さん。」
「そうですよ。春歌さんはもう万事屋の家族なんですから。」
「家族は、遠慮なんてしちゃダメヨ!」
「新八くん…神楽ちゃん…。」

涙が出そうになった。こんな何処から来たかも分からない、怪しい女を信じた上に一緒に住む場所さえも与えてくれた。家族だって言ってくれた。胸が暖かくなるのと同時に、幸せでぎゅっと締め付けられる様な気がした。きっと私はこの暖かさと苦しさを忘れることはないんだろう…

「飯食ったらこれで、神楽と新八と一緒に買いに行って来い。」
「…ありがとうございます。」
「それなら、さっさと食べて出かけるヨ!おい新八、早くご飯よそうネ!」
「はいはい。」
「よーし飯にすっぞー!」

それから初めて万事屋の食卓に、みんなで並んでご飯を食べた。万事屋の食卓はおかずの取り合いという名の戦場だったけど、だけど凄く賑やかで楽しかった


1日の始まり
(何だかこんなに賑やかな食卓…久しぶりな気がした)

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