こんな寒い日には
ピュゥと木枯らしが吹き荒れる1月の帰り道。冷たい風から少しでも逃げようと、マフラーに深く深く顔を埋めてみても、一向に寒いのは変わらないのだからたちが悪い

「三郎寒い。」
「何だその私が寒いみたいな言い方、主語を言え主語を。」
「三郎が寒い。」
「柚子お前ぇぇぇ!」

私と同じくらい寒がりな三郎は、コートにマフラーそれに手袋まで装備済みだ。安易に手袋よこせと手を出せば、やめろと叩かれてしまう。三郎のくせにっ!

「ほかほかの肉まんが食べたい。」
「こんな時間に食べると夕飯、食べれなくなるだろ。」
「ごめん、お母さん。」
「誰がお母さんだよ誰がっ!」

せめてお父さんだろ!なんて言う三郎に、残念。うちのお父さんは食べていいよって言ってくれるもんねー。と言えば、お前の家庭の事情なんて知らん。なんてスパっと切られてしまった

「じゃあ、半分こしようよ。それだったら良いでしょ?」

本当は1個をほかほかして食べたいのに、半分に妥協してやるんだぞ!そう言えば、三郎はしらーっとした視線を向けてきたものの、根負けしたのか、分かったよ。と某有名な数字のコンビニへと入っていった。外で待つ私は未だにピュウピュウ吹く冷たい風に、ぶるりと身震いした。一体、いつになったら暖かくなるのかな。コートのポケットに両手を突っ込んで、まだ少しだけ熱を持っていたホッカイロをぎゅっと握った。あー、暖かい…

「ほら。」
「ほかほか肉まん!三郎、ありがとう!」

手だけぽかぽかしていれば、いつの間に出てきたのか三郎が肉まんを渡してくれた。それにお礼を言いながらお金を手渡そうとすれば、いらないとそっぽを向かれてしまう。三郎のくせに、こういうとこだけ男前なんだから。私はもう一度、ありがとうを伝えて早速、肉まんを半分に割った

「はい、三郎の分!」

少し大き目に割った方を渡せば、三郎は何故かふっと笑いながらそれを受け取った。それを不思議に思うも、ほかほかの肉まんへの魅力に意識を持っていかれて、私はいただきます。と念願の肉まんへと齧りついた

「ふふ、暖かいね。冬の買い食いの定番ってやっぱり肉まんだと思うの!ね、三郎。」

温かい物を食べると、どうしてこうも幸せな気持ちになっちゃうんだろう。にこにこ笑いながら、ぱくりともう一口、肉まんへと齧り付く

「いや、私はどちらかと言えば焼き芋派だ。」
「あ、それも捨てがたい。」

あの「い〜しや〜きいも〜」っていう音楽聞いちゃうとね、もうダメだよね。気づいたらもう財布持って玄関のドア開けてるもんね。冬はどうしてこんなに食べ物がおいしいのか。肉まんしかり、焼き芋しかり。あ、コンビニおでんも良いよね。そこにおうどんなんて入れてもらってね。あぁ、もう薄情しますよ。要するに、ほかほかしてればもう何でもいいのだ

「三郎、寒い…。」

ぺろりと肉まんを平らげてしまえば、ほこほこ温かい気持ちにはなったけど寒いのには変わりなく。マフラーに顔を埋めてうーうー唸っていれば、ほらと横から何かが差し出された

「少しはましになるだろ。」

反射的に受け取ってしまったそれは、今まで三郎がはめていた手袋だった。本当に良いのだろうかと、おずおずと自分の左手にそれをはめれば、未だに三郎の熱を持った手袋は、ほんのり暖かいまま

「いいの?三郎、私よりも寒がりなのに。」
「柚子よりは寒がりじゃないから、安心しろ。」

そんなことを言いながらも、三郎は寒さを隠しきれなかったんだろう。両手をズボンのポケットに突っ込んで、行くぞとスタスタ先を歩いて行ってしまう。私はそんな三郎と、手元に残された右手の手袋に視線を落として、ピンと良いことを思いついてしまった

「三郎、右手貸して。」

少しだけ先を行ってしまった三郎を追いかけて、その右手を捕まえた私は、持っていた手袋をその手にそっとはめた。どうしたんだと、不思議そうな顔をする三郎ににっこりと笑って、私は空いた三郎の左手を、自分の右手でギュッと握った。私の冷たい手で握ってみても思った通り、やっぱり三郎の手はひんやり冷たくなってしまっていて、私はもっと暖かくなるようにと、三郎の手を握る右手に更に力を込めた

「…っな、何してんだお前は!?」
「いや、男女で手袋を半分こすると言ったらやっぱりコレが定番なのかなって。」
「だからってなぁ…っ!」

何が恥ずかしいのか、三郎は寒さで赤くなってしまった頬を更に赤くして、繋がれた私たちの手元へと視線をやった。だけど何か言おうとしたのか、言い淀んでは諦めて、最終的にはもう好きにしろとそっぽを向いてしまった。何だ、三郎も可愛いところあるじゃないか。私は内心で小さな驚きに襲われながらも、顔にはにっこりと笑みを浮かべた

「ふふ、暖かいねぇ、三郎。」
「……ああ、そうだな。」

寒さのせいじゃないと思う。三郎の耳がさっきよりも、もっとずっと赤くなっていたのを私は見逃さなかった


こんな寒い日には
(キミと一緒にいるのも悪くないかな)
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