ルビー色が煌めいた


私の部屋は船長と同じ階層にある、小さくも大きくもない丁度いい大きさの部屋だった。ベッドにタンスに机。必要な家具は揃っていて、私は机の横へと持ってきていたキーボードを置いて、ベッドの上でリュックサックとボストンバッグを開いた。ルルさんが中へと詰めてくれていたのは、オールシーズン分の衣類に歯ブラシや化粧品などの日用品、暗器にこの島で見つけた兵糧丸や増血剤を作るための石臼。それらが綺麗にきっちりとバッグの中に詰められていた

「しかしルルさん、よくこれだけの量を詰めれたな。」

それに感心していれば、「入るぞー。」なんてノックをする前に扉を開いたシャチが、ずかずかと部屋の中へと入ってきた

「乙女の部屋に入るのにノックもしないなんて、シャチくんはどれだけデリカシーが無いのかな。」
「うぇ、わ、悪い!」

嫌みったらしくじっとりとした視線を投げつければ、思いのほか焦った様にシャチが謝罪の言葉を口にした。慌てるシャチをからかうのも楽しそうだけど、何だかそれも少し可哀想に思って私は話を変える様に促した

「それで、どうしたの?何か用事があったんでしょ?」
「…あ、おぉ。そうだよ。コノハのつなぎなんだけどさ、次の島にある仕立て屋で頼もうと思うんだけど、どんなんが良い?」
「どんなんって、デザイン統一されてるんじゃないの?」

ちらりと視線をシャチの着る真っ白なつなぎに向ければ、シャチはよく見せてくれようとしたのか、バッと手を広げてにかりと笑った

「基本はこれだけどよ、アレンジしたって良いんだぜ?俺らは特にこだわりがねぇから、統一してっけど。ほら、ベポのだってオレンジ色だろ?アイツ身体も真っ白だから、つなぎも白にしたら一体化しちゃうーって言ってよ。」

ハハっと思い出した様に笑うシャチ。いや、だけどそれもそれでベポ可愛い

「だったら、動きやすいハーフパンツが良いかも、それにフードと、忍具ポーチ付けるために腰ベルトも欲しい!」
「OK。ハーフパンツなら袖も半袖の方が良いだろうな。」
「うん、半袖の方が動きやすいし。」
「んじゃぁ、ハーフパンツの5着と、一応、俺達と同じデザインの3着くらいあったらいいか?」
「十分すぎるよ。ありがとう!」

良いぜーなんてシャチは頷いて、んじゃぁ、そろそろ行くかと部屋の扉を開けた

「よーし!飲むぞー!食べるぞー!」
「お、飲み比べするか?」
「忍びに飲み比べを挑むなんて、痛い目見る気満々だね!」
「何、お前そんなに飲むの?」

ぎょっと驚くシャチを置いて、私は後でのお楽しみーと、一人先に宴が始まっているであろう甲板へと向かった。そのまま甲板へ繋がる扉を開ければ既に宴は始まっていて、わいわいとお酒を飲みかわす船員で甲板は埋まっていた

「あ、コノハー遅いよー!もう始まってるよ!」
「ゴメンねベポ。」

扉の近くにいたベポが、そんな私に気付いて甘い香りのする果実酒が入った樽ジョッキを手渡してくれた。ベリー系の甘い香りに少しだけ頬が緩んでしまう。ジョッキを持ったままちょこんとベポの隣に座れば、遅れてやって来たシャチが私の隣にどかりと腰を下ろした

「お前、置いてくことねーだろ。」
「ボケっとしてるシャチが悪いんだよー。」

ジョッキを傾け果実酒に口を付ければ、ほんのり甘い味が口内に広がった。うん、これはなかなか良いお酒だ

「ねぇ、コノハ。コノハのこと聞かせてよ。」
「私のこと?」
「うん、この船に乗る前のコノハのこと。ドレミ島に来てからとか、その前の世界でのこととか!」

ベポは少しだけ酔っぱらってしまっているのか、真っ白な頬を赤く染めてにっこにっこと目尻を緩ませている。あぁ、もうベポ可愛いなベポ。その可愛らしさにほっこりする私とは対照的に、シャチはお前もう酔ってんのかよーなんてベポの頭を小突いていた

「勿論、いいよ。じゃぁ、私の世界でのことから話した方がいいかな?」
「お、俺も気になる。コノハは、忍者だったんだろ?」
「うん。火の国、木ノ葉隠れの里の忍びだよ。」

えへん!と胸を張ってそう言えば、ベポは凄いねぇなんて何故か手を叩いて喜んでいた

「忍びって、そもそも何してんだ?」
「一般的には依頼された任務をこなしていくんだけど。」
「任務?」
「そうそう。ペット探しから草むしり、護衛に暗殺まで幅広く何でも請け負っちゃうのが忍びなんだ。」

呆気からんとそう言えば、またしてもベポはコノハは凄いんだね!なんて笑顔で手を叩いていた。ベポ酔っ払いすぎじゃない?

「ペット探しから随分、物騒なとこまでぶっ飛んだなおい。」
「海賊が物騒なんて言葉、言っちゃう?」

あははと笑えば、シャチもにかりと笑ってそれもそうだなと持っていたジョッキをぐいっと傾けた

「最近は木ノ葉の里も忍び不足でね、ほとんど任務漬けの毎日だったよ。稀の休みは修行したり、友人とラーメン食べに行ったりゴロゴロしたり…ま、そんな生活かな。」

ちびりと口を潤す程度に含んだお酒は甘くて、何だか木ノ葉の里の友人たちを思い出してしまった。本当に優しくて良い人たちばかりだったな。同い年なのに何故かいっぱい甘やかしてくれて、私が死んでしまってから彼らはどうしただろうか。泣いてはないかな、立ち止まってはいないだろうか。仲間思いの彼らのことだから、心配だな。だけど意志の強い彼らのことだから、きっと大丈夫だろう。もうとっくに前を向いて進んでいるだろう。そんな彼らの隣をもう歩けないことは悲しいけど、違うこの世界で同じ火の意志を持って私も迷わず歩いているから、きっと何処にいたって一緒だよね

「何、1人でにやにやしてんだよ?」
「お酒が美味しいからですー。」
「あ、コノハそれ気に入ってくれたの?お代わりいっぱいあるからね、はい。」

訝し気に眉を顰めたシャチにツーンと言い返せば、隣でベポがトクトクとジョッキに果実酒を注いてくれた

「おい、コノハ。」
「あ、船長。お酒頂いてます。」

そのお酒をぐいぐいと飲んでいれば、突如かけられた声に私はパッとジョッキから口を離した。そのまま声のした方を振り返れば、船長が相変わらず鋭い視線を此方に投げていて、私はどうしたんですか?と船長まで近づいた

「一応、名目はお前の歓迎会だ。自己紹介くらいしとけ。」
「名目って、本音はただ飲みたいだけかちくしょう。」

悪態付きながらも、それでもやっぱり歓迎会だってしてくれるのは嬉しくて、私はトンと甲板の隅に積み上げられてた空き箱の上に立って、ぐるりと全員を見渡した

「えーっと、今日からこのハートの海賊団の一員となったコノハです。この海賊団に仇を為す敵はぎったんぎったんに叩きのめす所存ですので、どうぞ宜しくお願いしまーす!」
「っよ!コノハちゃん、頼もしいぞー!」
「宜しくねコノハちゃーん!」
「宜しくー!」

ピィーピィーと指笛や歓声が響き、私はそれに笑顔で答えながらも皆が上へと持ち上げたジョッキを見て、手に持ったジョッキを空高くへとぐっと掲げてみせた


ルビー色が煌めいた
(新しい仲間に、乾杯ーっ!)


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