この世界は私の世界じゃないのだから


「いえ、違います。私、異世界から来たので。」
「お前、吐くならもっとましな嘘をつけ。」
「えー。じゃあ私、実は神様なんですよ。」
「もっと、突拍子ねーよ!」

あれから船を出航させて既に2時間が経過していた。その間に、私はこの潜水艦の中を色々と案内してもらい、船長直々に戦闘員兼音楽家というポジションを頂いた。それに何でも女性クルーは私1人だけということで、1人部屋のしかも鍵付きの部屋を貰えたのだ。嬉しすぎる!その嬉しさにホクホクしながら、案内してくれていたシャチとベポと共に甲板へと戻れば、何やら船長とペンギンが話し込んでいる様だった。何を話しているんだろう。そんな私たちの視線に気づいたのか、此方へと振り返った船長は唐突に、本当に私はワノ国の出身なのかと問うてきた。だから掻い摘んで冒頭の台詞を吐けば、鋭く否定的な言葉を投げかけられた。それならばと、ご要望通りに嘘を吐けば今度はシャチに頭を小突かれる始末だ。何なんだこの仕打ちは

「もう、我儘ですねぇ。じゃあどういう回答をご希望なんですか?」
「真実だ。」
「じゃあ、私、異世界から来たんです。」
「振り出しに戻ったじゃねーか!」

ギャーギャー煩いシャチに私は、だから真実なんだってば!と強く言い返した。それでも尚も何か言い返してくるシャチをもう無視することにして、私は木箱の上でその無駄に長い足を組んでいる船長へと視線を向けた

「私、嘘はついてません。それに出会ってそんなに時間は経ってないけど、この船の皆はもう仲間だって思ってます。そんな人たちに私は嘘なんてつきませんから。」

ピシャリと、主にシャチに鋭く視線を投げつけながら言えば、シャチは面食らった様な顔をして、それとは反対にベポは嬉しそうにえへへと笑っていた

「どうしてこの世界に来てしまったのかは分からないんですけど…。私、自分の世界で1度死んでるんです。」

そう言った途端、嬉しそうに笑っていたベポの顔は一瞬で青ざめ、「え、コノハって幽霊なの!?」なんて的外れなことで驚いていた。そんな慌てるベポとは反対に、船長はその鋭かった目を少しだけ見開いて、どういうことだと冷静に問い返してきた

「ご存知の通り、私は忍びです。要人の護衛という任務を請け負った私は、任務の遂行中に敵の襲撃に合い、胸を拳で一突き。殺されました。」

そっと左胸に手を当てれば、規則正しく鼓動を打つ心臓にホッとする。あの瞬間、確かに私は死んだ。胸を走る衝撃に痛いなんて感じず、ただただ熱いと思った。ゴポリと口から零れ出る生暖かい血液に、呼吸が出来なくなった。途端に襲ってくる眠気に、意識の底へと落ちていく感覚。忘れもしない、あれがきっと死という感覚

「だけど次に目を開いたその時、私はドレミ島の路地裏にいたんです。そこをルルさんに拾われて、今日までルルさんにお世話になっていました。」
「証拠は。」
「証拠なんて確たる物はありません。だけど忍術、これが私に出来る唯一の証明です。」

身分を証明できる物なんて何もないし、私の出生を知っている人なんてこの世界にはいないだろう。持っていた物なんて暗器や起爆札くらいな物。それらを見せたところで武器が横行しているこの世界では、何の証明にもならない。だけど私だけが持っているもの、この忍術だけは別物なんだ

「私のいた世界では、忍術を使う為にはこのチャクラという生命エネルギーが必要になります。」

私は、受け皿の様にした右の掌を胸の位置まで上げて、そっとそこへチャクラを流し込んだ。その瞬間、ブゥゥンという音を響かせて、水風船程の大きさの光の玉、チャクラの塊が出現した

「うおっ!何だこれ!」
「これがチャクラです。チャクラは私の身体の中、全てを行きかっていて、このエネルギーを元にして忍術を発動することができます。私の世界では皆、このチャクラというエネルギーを持っていました。だけど今までこの世界の人たちを観察したところ、このチャクラを持っている人は誰1人、いませんでした。だからきっと忍術を使える人間は、この世界にはいないんだと思います。だけどそれに確証は無いし、それが真実なのかどうか船長たちに知る術はありません。だけど、私にはこれしか証明できる物が無いんです。」

そうキッパリと言い放てば、船長は相変わらずその鋭い視線をぶつけてきた

「生命エネルギーと言うことは、お前がそのチャクラを全て使い切るとどうなるんだ?」
「死にます。」

呆気からんと言う私と反対に、その発言に驚いたシャチは、はぁ!?なんて素っ頓狂な声をあげて私の肩へと掴みかかってきた

「だったらその忍術を使うのは危険なんじゃねぇか!」
「勿論、リスクはあるよ。過度に使いすぎれば疲弊するし、威力も落ちる。だけど休めばその分、チャクラはまた回復する。ただ、自分の限界を知って、空っぽにならない様に注意すれば良いだけのことだよ。だから大丈夫。」

にっこりと笑いかけながら大丈夫なんだと言えば、シャチは納得いかないのかそれでも、大丈夫じゃねぇだろ!と大きな声をあげる。だけどシャチ、という船長の怒気を孕んだ低い声と鋭い視線を受けてからは、渋々だけどゆっくりと肩から手を放してくれた

「だったらその忍術とやらを見せてみろ。」
「っ、船長!」
「分かりました。」
「っな、コノハ!」

シャチはまたしても声を荒げたが、船長の睨みを受けて、何か言いたげだがその口をピタリと閉じてしまった。船長の挑発的な視線の中に混じる探る様なそれ。きっとこれは試されているのだろう。仲間としてこの船に足を踏み入れたは良いが、船長は私の実力をまだ知らない。だったら受けてたとうじゃないか。私はその命令に、二つ返事で了承した


この世界は私の世界じゃないのだから
(だけど居場所は作れるんだ)


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