デッドオアアライブ


「やっぱりお前、演技してたんだな!」
「それは何だか全面的に申し訳ないです。私も厄介ごとはゴメンでして。」

俺たち前にして厄介ごとって何だよ!なんて憤慨するキャスケット帽子さんに、内心でまさにこの状況だよアホと毒づいてみる。しかし毒づいてみたものの、彼らの目の前にいて縄でぐるぐる巻きにされてるそれは私の影分身な訳で。本物の私はと言うと、見張り台の上で気配を消して様子を伺っていた。いつの間に、と聞かれてしまわれればぐるぐる巻きにされる直前…としか言いようがないけど

「お前の能力は何だ。」

そう言ったのはふわもこ帽子の船長だった。口元には相変わらず意地悪そうな笑みを浮かべたまま、挑発的な態度で問うてきた。それにしらを切り通そうかと思案するが、もう誤魔化し様がないところまでバレてしまっている手前、薄情してしまった方が利口だろう。何てことはない。もしこっちに害を為そうものなら、それに抵抗すれば良いだけだ

「それは悪魔の実の能力なのか?」
「初めに言った通り、私は悪魔の実を食べた覚えはありませんので、その実の能力を授かったつもりはありません。」
「だったら、さっきのアレは何だってんだよ!」

私のその発言が納得できなかったのか、キャスケット帽子さんがまたしても突っかかってきた。さっきから本当に騒がしい子だな、なんて思っていたのは私だけじゃない様で、隣にいたペンギン帽子さんに「シャチ、五月蠅いぞ。」と注意されていた

「じゃあ、水を操ったり水面の上に立ったのは、何の力だ。」

何もない、なんてそんな言い訳は通用しないからな。と威圧してくるふわもこ帽子さんに、流石の私もそんな子供染みた言い訳は使いませんと切り替えしたくなるのをぐっと飲み込んで、それを溜息に変えて吐き出した

「…私のは忍術です。」
「忍術?」
「そうです。私は忍びですので。」

そう言えば、周りのクルーの人たちはざわざわとざわめきだした。忍びって何だ?お前、知ってる?いや、知らねぇ。と言っているあたり、彼らは忍びについて知らないのだろう。この島に来たその日に、図書館で真っ先に調べた忍びのこと。どうやらこの世界には、と言ってもこの辺り一体では忍びという者は一般的では無いらしい

「確か、ワノ国にいるとされている隠密部隊…だったか?」
「ペンギン帽子さん、ご存知でしたか。」

だから私は彼が忍びという者を知っていたことに、素直に驚かされた。このグランドラインでは、全く知られていないだろう忍びという存在。だけど此処から遠く離れたワノ国では、今でも忍びがいるとかいないとか。だけどその存在は、お伽噺かの様に曖昧にぼかされていて信憑性は全く分からないとも記されていた。忍びが現実に存在するのか、それとも架空の存在なのかが…

「まさか実在していたとはな。」

ふわもこ帽子さんはそう言ってはいたけど、まさか私がこの世界の忍びだとは言えないよな。だから私は曖昧に、あははと乾いた笑みを浮かべた

「それで、どういう仕組みなんだ?」

またしてもニヤリと、意地悪気に口角を上げたふわもこ帽子さんは、座っていた酒樽から腰を上げてコツリとしゃがみ込む私へと近づいて来た

「どうやって水を操ったり、水面の上に立ったのか…。それはどういう絡繰りだ?」
「それを教えなければならない理由はありません。」
「…ほう。」

キっと下から睨み付ける様に見上げれば、彼のその笑みはますます深い物になった。コツリ、また一歩近づいてきたかと思えば、彼は私の前でしゃがみ、その目つきの悪い視線を、私のそれと合わせてきた

「なら、力づくで吐かせるまでだ。」
「はっ、貴方に私の口を割ることが出来ますかねぇ?」
「お前っ、船長に向かって生意気言いやがって!」

そんな安い脅しに屈する訳がない。鼻で笑い飛ばし、ふわもこ帽子さんの目を嘲笑うかの様に見返せば、キャスケット帽子の彼が憤慨して大きな声をあげた。それをチラリと横眼で見て、私はわざとらしくため息を零した。本当に厄介通り越して、面倒なことになってきたな…と

「お前、今の状況分かってんのかよ!?」
「勿論、分かっているつもりですが?貴方たちよりも、ね。」
「んだと!?」

今にも掴みかかって来そうなキャスケット帽子さんを、隣にいたペンギン帽子さんが落ち着けと肩を掴んで止めた。周りのクルーの人たちも、どうすんだなんて雰囲気で私とキャスケット帽子さんたちと、ふわもこ帽子さんを見比べ、警戒している。そんな中で、彼らに囲まれている私の分身は、縄でぐるぐる巻きにされながら尚も、挑発的な笑みを浮かべていた。かく言う本物の私は面倒だな、なんて溜息の連発だ。何故なら明らかに今の状況が悪化しているからだ。例えるなら一発触発。見張り台の上からは甲板の全てが確認出来るため今、クルー全員が背中や懐、腰などに携えている武器に手をかけているのが見てとれる。やっぱり、やんなきゃダメかなぁ…。それは私の影分身が、縄抜けしようと手首を捻ろうとした時だった

「キャプテンー。」

間延びした声でドスドスという重たい足音を響かせながら、輪の中へと入りこんできたのは1匹の白熊。オレンジ色のつなぎに身を包んだその白熊を、ふわもこ帽子さんは、「ベポか、どうした。」とそう呼んだ

「さっき町にいたんだけどね、海軍が町中で騒いでたんだ。何でも新しい手配書が出たからって。」

そう言ってピラっと白熊さんが差し出した手配書を受け取って、ふわもこ帽子さんは楽し気に目を細めた。あ、凄く嫌な笑みだ。そして何故かその視線は、チラリと私へと移りその手にあった手配書を、何故か私へと見せてきた。何だよ。チラリと睨み返しながらも、そこは素直に手配書を覗き込めば、そこに写っていた予想外の人物に、私の分身は驚愕の悲鳴をあげた

「っな、ななな何で!?」

え、分身の私は何をあんなに驚いているのだろうか。私も手配書に誰が写っているのか気になるけど、この距離じゃあんなに小さな写真の確認しようがない。だけどその不満も杞憂に終わった

「っ、何で私の手配書があるの!?」
「はィィィ!?」

分身が叫んだ衝撃発言に、甲板に隠れているにも関わらず私は絶叫した。な、なな何だって!?私が指名手配!?私は一瞬で甲板から飛び降りて、ふわもこ帽子さんの持っていた手配書をひったくる様にして奪い取った。ほ、本当だ!私が映ってる!

【疾風の手品師 - コノハ - ハートの海賊団 Dead or Alive 6000万ベリー】

「な、何で私が指名手配になんてなってるの!?」
「って、は!?な、何でお前、え、2人!?」

引きちぎりそうな勢いで握り締められたその手配書には、不適に笑う私の姿がありありと写っていた。何処からどう見ても私だ。しかも何だこの異名は…。それに、ハートの海賊団って…。完璧、海賊として認識されてるじゃないか。まさかこんなことで、私の日常が壊されるなんて…っ!ガクリと甲板の上に膝を付いて項垂れれば、ボフンと言う音と共に私の分身は姿を消した


デッドオアアライブ
(グッバイ私の平凡ライフ)


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