ようこそ袋叩きの甲板へ



「いや、本当に嘘じゃないんですって船長!本当にコイツが津波を起こして海軍全部、流しちまったんですってば!」
「…ほう。」

フラグフラグフラグフラグ。何のって?死亡フラグだよバカ!ただ今、私は何故かこの船の船長らしきふわもこ帽子に刀を突き付けられて、甲板の上に正座させられています。勿論、周りはクルーの人たちにぐるりと囲まれていて、今から袋叩きに合いそうな雰囲気爆発だ。そもそもこの船にクルーの人たちが慌ただしく戻ってきたのが、ほんの数分前。この島には海軍の駐屯所は無いが、たまたま海軍が視察に来ているという噂を聞いて急いで戻ってきたとのことで。そんな彼らを横目にこっそり逃げるも虚しく、私はキャスケット帽子の彼に捕まえられてしまった。そして今に至る訳で

「それにあの津波、生き物みたいに動いてたし、そもそもこの船だけを的確に狙ってくるなんて自然じゃありえないっすよ!」
「船長。シャチの言う話が本当なら、能力者という可能性も。」
「そうだな…。」

頭に“PENGUIN”というロゴの入った帽子を目深に被った青年から、訝し気な視線を感じた。どうやら彼らは私の忍術=悪魔の実の能力と勘違いしている様だ。その答えに、ふわもこ帽子の船長さんがカチャリと刀の刃を私の首へと宛がった

「お前、能力者か?」
「…私は、悪魔の実を、食べた覚えはありません…。で、ですので…能力者では、ありません。」

自分で言うのもアレだけど、きっと彼らの目に今の私は生まれたての子ウサギの様に映っているのだろうと内心、鼻で笑っていた。こちとら忍者やってんだよ。敵を欺く演技なんてお手の物。もし此処で私が忍者やってます、海軍?あぁ。全員、島流しにしましたね。なんて言ってみろ。「出る杭は打たれる」ってことわざがある通り、危険人物としてそれこそ袋叩きに合うかもしれないじゃないか。いや、それならそれで反撃くらいはするけど、穏便に済むならそれに越したことは無いでしょ?

「じゃあ、シャチの言ったその水を操る能力は何だ。」
「…何のこと、でしょうか…?…わ、私は、水を操った覚えはありませんし…彼の勘違い…としか…。」
「な、お前っ!」
「きゃっ!」

少しだけ楽しくなってきてノリノリな演技を披露していれば、明らかに私の態度の違いへの違和感を感じ取ったのだろう。その上で、忍術を使ったことを知らないと言い通す私に、キャスケット帽子の彼が何言ってんだお前!と大きな声をあげた。私はそれに怯えるフリをして、短く悲鳴をあげながら頭を抱えて更に蹲った。って言うか、きゃっ!なんて、きゃっ!なんてそんな乙女な悲鳴に、もし今此処に同じ木の葉の里の仲間であるナルトやキバ達がいれば、きっと私を指さして腹を抱えて大爆笑するんだろうな、なんて想像して笑ってしまいそうになった。…あ、でもそれはそれで何かムカつくんだけど

「せ、船長!本当なんですって!俺、嘘ついてないんっすよ!?」
「………。」

怯える私を前に苦々しい表情をしたキャスケット帽子さんは、私に薄情させるのは諦めたのだろう。今度は信じてくださいよ船長ー!なんて泣いてしまいそうな程の情けない声を出しながら、ふわもこ帽子さんへと縋りついていた。何て言うか、傍から見れば親に怒られて必死に許しを乞う小さな子供の様だ…。そんな姿に一瞬、罪悪感が過るが私は忍びだ。心を無にするんだ私。お前は忍びだろ。心を無に、無に…

「船長ぅぅ!」
「船長、どうしますか。」

泣きつくキャスケット帽子さんを見るに見かねてか、今度はペンギン帽子さんがふわもこ帽子さんへと進み出た。そんな彼らをチラリと見やったふわもこ帽子さんは、次に私へとその視線を移して何やら物騒な言葉を口にした

「だったら、確かめれば済むことだ。」
「…へ?」

確かめる、そう言ったふわもこ帽子さんはニヤリと口元に極悪人も真っ青な笑みを浮かべた。それに私も、極悪人ではないがサッと顔を青くして真っ先に思ったこと、殺られるっ!じり、と甲板に座り込んだまま後ろへと後退する。これは逃げよう。そう思う暇もなく私は、ガシリと船長さんに胸倉を掴まれたかと思えば、そのまま弧を描く様にしてぽーんと船外へと放り出されてしまった。勿論、陸とは反対方向へと投げられたことで、その下は海。私は考えるよりも反射的に、足の裏へとチャクラを集め、海へ落ちる前にその水面へと着地した。…あ、危なかったっ!何だあのふわもこ帽子さんは!酷いことするな。それは、ふぅ。と安堵の息を吐いた時だった。チリっと上から突き刺さる痛い程の視線、私はそれを感じ取ると同時に自分のしでかした取り返しのつかないミスにまで気付いてしまい、またしてもサッと顔を青くした。急いで下から船を見上げれば、欄干に肘を付きながらもニタニタと意地悪そうな笑みを浮かべるふわもこ帽子さんが、此方を見下ろしていた。…や、やっちまった!今の今までか弱い楽器屋の娘を演じていたのに、これで全てが水の泡じゃないか!普通の女の子は水の上に立ったりしないし、これじゃあ自分が何かの能力を持ってるって身体を張って証明した様なもんじゃないか!あぁぁ、忍びとしての条件反射が今じゃ憎い!……だ、だけど、ポジティブに考えてみれば、もうバレてしまったものは仕方がないじゃないか。それに此処は船外な訳で、解放されればこっちのもんだ。…とりあえず

「逃げるが勝ち!」

これにてドロン!このまま煙に紛れて逃げてしまおうと、私が煙玉を放とうとした時だった


「 シャンブルズ 」


「はへ?」

何故か私は元の甲板にいて、私のいた水面にはプカリと酒樽が浮いている。そして何よりも私の頭は、ガッチリとふわもこ帽子さんの大きなその手に掴まれていた


ようこそ袋叩きの甲板へ
(あ、どうしよう頭割れる、これ割れるよ頭…あ、痛たたたた!)


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