チリン ―― と鈴の様な音が闇に広がった
誰かが私を呼んでいるような 小さな音が――…
今からざっと5年前。まずは私がこの世界に来た時の話をしたいと思う。所謂、神様の悪戯か思し召しで、私が神の使徒となった時のお話だ
私は小さな浮遊感を身体に感じた後に、トンっと静かに地面に降り立った。もう今まで何度も感じたことのあるこの感覚は、気持ち悪くてしょうがないものだったけど、今ではもうすっかりと慣れてしまっているから不思議だ。それに何たって姿現しは私の得意の魔法の1つでもあるんだから
「コッツウォルズに到着!」
久し振りに訪れたコッツウォルズの町。此処にはおじいちゃんの家があって、凄く田舎なんだけど緑がたくさんある凄く綺麗な町。毎年、学校が夏休みになると此処で私は毎日を過ごすんだ。だけどですね。だけども
「…此処…何処ですか…?」
私はぐるりと確かめるように周りを見渡した。頭上には大きな月が丸々と浮かんでいて、暗い闇に包まれた町を明るく照らしている。だけどその照らされた町の建物は全て廃墟になっていて、唯一、月明かりに照らされていない森の奥は深い闇が広がっていた。はっきり言いたくないけど幽霊でも出そうな雰囲気。私の頭の中にあるコッツウォルズの風景とは全くもって違っているんですけども
「もしや町を挙げての全面大改装……な訳ないか。」
私はあり得ない考えに自分で自分に突っ込みを入れて、目の前に聳え立つ廃墟を、後ろにひっくり返るんじゃないかってくらい見上げた。だってそれくらい高い建物が目の前に立ちふさがっていたのだ。一見、それは教会なんだろうけど、この廃れた感じから言わせていただくと、まるで吸血鬼城
「………さ、さぁ、気を取り直してもう1度トライよ私!」
そして私はもう1度コッツウォルズへ姿現しをした
なんてことがあったのがざっと5分前。あれから何度も何度も姿現しをしても、何の呪いか絶対にこの場所に現れてしまうのだ
「もうダメだ疲れた…。」
私はペタンとその場に座り込んで、未だ目の前に堂々と立ちふさがる教会を見上げた。とりあえず自分の力でコッツウォルズに行くことは不可能だということが分かった。きっといつまで経っても家に来ない私を不審に思ったおじいちゃんが探しに来てくれるだろう。そうと決まればとりあえず誰か人に出会わなければ。此処が何処だか分かんないままじゃ、どうにも出来ないからね。とりあえずどっか宿でも見つけたいんだけど
「でもこうも廃墟ばっかで人がいるはずないんだよね…。」
私は重たい腰を上げて、ローブに付いた砂をパンパンと軽く叩いた
「とりあえず歩きまわってみようかなぁ。」
右と左どっちに行こうかな、どの方向に曲がろうか考えてると、不意に頭上からパチリ視線を感じた
「………っ!?」
途端に私はゾクリと背中を這い上がる何とも言えない感覚に襲われ、私はその視線の送り主を確認するのも恐ろしくて、ただその視線から逃れようと、気がつけば私は本能だけで道を左に折れていた
「ななな、いきなり何よ誰よっ!」
それがただの視線だったら良かったのに、私はその視線から逃れたい一心で、ただ無我夢中で走った。だけどどんなに走っても、その視線はずっと私を追いかけてきた。これを追いかけっこだと楽しむかの様に
「…はっ、はぁっ…、」
私はただ早くこの視線から逃れたかった。だってその視線には「私を殺したい」と狂喜の視線が混じっていたから
「…うわっ!」
闇雲に月明かりだけの道を走っていた私は、瓦礫に足を奪われ転んでしまった。立たなくちゃ。立たなくちゃいけないのに、足は持ち主の言う事なんかお構いなしに動こうとはしてくれない
「…動いてよっ…。」
どんなに足を動かしたくても恐怖に足は震えて
「もう追いかけっこは終わりですかお嬢さん?」
直接、脳に響くような甲高い声、不意に私は顔をそちらに向けてしまった
「……っ!?」
黒い身体に天使の様な白い羽。“ソレ”は私をあざ笑うかの様に宙に浮き見下ろし、小さな子供のような大きさの“ソレ”はクスクスと笑みを漏らす。明らかに人間の形じゃなかった
「つまんないですね。もっと遊びたかったのに。」
だけどその言葉には、つまんないなんて気持ちは入ってなくて、これから私を殺すことへの歓喜に満ちていた
「これで終わりだなんて残念ですよ全く。」
その声と共に“ソレ”の手で視界を塞がれた。それは私の顔を容易に覆う程の大きさの手で、私は顔を掴まれたまま易々と宙に持ち上げられた
「……っや、め…。」
「さようなら。」
胸に何かが押し付けられる感じ。きっとそれはコイツが持っている長い爪。私は今から胸を貫かれて死んでしまうのかな…そんな考えが冷静に頭を過った
これが運命だと言うのなら
(私は死にたくないと抗いたい)
誰かが私を呼んでいるような 小さな音が――…
今からざっと5年前。まずは私がこの世界に来た時の話をしたいと思う。所謂、神様の悪戯か思し召しで、私が神の使徒となった時のお話だ
私は小さな浮遊感を身体に感じた後に、トンっと静かに地面に降り立った。もう今まで何度も感じたことのあるこの感覚は、気持ち悪くてしょうがないものだったけど、今ではもうすっかりと慣れてしまっているから不思議だ。それに何たって姿現しは私の得意の魔法の1つでもあるんだから
「コッツウォルズに到着!」
久し振りに訪れたコッツウォルズの町。此処にはおじいちゃんの家があって、凄く田舎なんだけど緑がたくさんある凄く綺麗な町。毎年、学校が夏休みになると此処で私は毎日を過ごすんだ。だけどですね。だけども
「…此処…何処ですか…?」
私はぐるりと確かめるように周りを見渡した。頭上には大きな月が丸々と浮かんでいて、暗い闇に包まれた町を明るく照らしている。だけどその照らされた町の建物は全て廃墟になっていて、唯一、月明かりに照らされていない森の奥は深い闇が広がっていた。はっきり言いたくないけど幽霊でも出そうな雰囲気。私の頭の中にあるコッツウォルズの風景とは全くもって違っているんですけども
「もしや町を挙げての全面大改装……な訳ないか。」
私はあり得ない考えに自分で自分に突っ込みを入れて、目の前に聳え立つ廃墟を、後ろにひっくり返るんじゃないかってくらい見上げた。だってそれくらい高い建物が目の前に立ちふさがっていたのだ。一見、それは教会なんだろうけど、この廃れた感じから言わせていただくと、まるで吸血鬼城
「………さ、さぁ、気を取り直してもう1度トライよ私!」
そして私はもう1度コッツウォルズへ姿現しをした
なんてことがあったのがざっと5分前。あれから何度も何度も姿現しをしても、何の呪いか絶対にこの場所に現れてしまうのだ
「もうダメだ疲れた…。」
私はペタンとその場に座り込んで、未だ目の前に堂々と立ちふさがる教会を見上げた。とりあえず自分の力でコッツウォルズに行くことは不可能だということが分かった。きっといつまで経っても家に来ない私を不審に思ったおじいちゃんが探しに来てくれるだろう。そうと決まればとりあえず誰か人に出会わなければ。此処が何処だか分かんないままじゃ、どうにも出来ないからね。とりあえずどっか宿でも見つけたいんだけど
「でもこうも廃墟ばっかで人がいるはずないんだよね…。」
私は重たい腰を上げて、ローブに付いた砂をパンパンと軽く叩いた
「とりあえず歩きまわってみようかなぁ。」
右と左どっちに行こうかな、どの方向に曲がろうか考えてると、不意に頭上からパチリ視線を感じた
「………っ!?」
途端に私はゾクリと背中を這い上がる何とも言えない感覚に襲われ、私はその視線の送り主を確認するのも恐ろしくて、ただその視線から逃れようと、気がつけば私は本能だけで道を左に折れていた
「ななな、いきなり何よ誰よっ!」
それがただの視線だったら良かったのに、私はその視線から逃れたい一心で、ただ無我夢中で走った。だけどどんなに走っても、その視線はずっと私を追いかけてきた。これを追いかけっこだと楽しむかの様に
「…はっ、はぁっ…、」
私はただ早くこの視線から逃れたかった。だってその視線には「私を殺したい」と狂喜の視線が混じっていたから
「…うわっ!」
闇雲に月明かりだけの道を走っていた私は、瓦礫に足を奪われ転んでしまった。立たなくちゃ。立たなくちゃいけないのに、足は持ち主の言う事なんかお構いなしに動こうとはしてくれない
「…動いてよっ…。」
どんなに足を動かしたくても恐怖に足は震えて
「もう追いかけっこは終わりですかお嬢さん?」
直接、脳に響くような甲高い声、不意に私は顔をそちらに向けてしまった
「……っ!?」
黒い身体に天使の様な白い羽。“ソレ”は私をあざ笑うかの様に宙に浮き見下ろし、小さな子供のような大きさの“ソレ”はクスクスと笑みを漏らす。明らかに人間の形じゃなかった
「つまんないですね。もっと遊びたかったのに。」
だけどその言葉には、つまんないなんて気持ちは入ってなくて、これから私を殺すことへの歓喜に満ちていた
「これで終わりだなんて残念ですよ全く。」
その声と共に“ソレ”の手で視界を塞がれた。それは私の顔を容易に覆う程の大きさの手で、私は顔を掴まれたまま易々と宙に持ち上げられた
「……っや、め…。」
「さようなら。」
胸に何かが押し付けられる感じ。きっとそれはコイツが持っている長い爪。私は今から胸を貫かれて死んでしまうのかな…そんな考えが冷静に頭を過った
これが運命だと言うのなら
(私は死にたくないと抗いたい)