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「で、何でさっきお前は泣いていたんだ」

リヴァイ兵長の部屋で、普段よりさらに眉間にしわを寄せている目の前の彼を見ながら私は縮こまり言葉を濁した。

最初に訂正しておくが、私は決して泣いてなどいない。

時は数分前に戻り、リヴァイ兵長の班に所属している私は彼の部屋に呼ばれた。班員への伝言を頼まれ失礼しましたと告げ扉を閉める。
するとろう下に出た途端気がゆるんだのか大あくびが出てしまった。仮にも仕事中なのにこんな顔をしているのがばれたらどうなるか。誰にも見られなくて良かったとちょうど口を閉じた時、偶然にもリヴァイ兵長が「ついでにこの書類をペトラの所に…」と部屋から顔を出し、私を見て固まった。なんでよりによってこの人にと心臓がばくばく暴れ出す。すぐに謝ろうとしたのだが彼は怪訝な表情をしながら私に尋ねた。

「何があった」

リヴァイ兵長は、大あくびをした直後の涙目になっている顔を見て、私が泣いていると勘違いしたのだ。泣いている理由を尋ねられてもいや、あくびですと言えばきっと「一日中掃除してろ。その腑抜けた態度も一緒に捨ててこい」とか言われてしまうだろうしどうしようと黙ったままでいると、ため息をついたリヴァイ兵長は私の手を取ってこちらが戸惑っているのもお構いなしで自室へと連れ込んだのだった。


そこで冒頭の状況に戻る。手首を掴まれたまま変わらず私の答えを待つリヴァイ兵長は答えが返って来ないのを見るとそのままベッドの方へ投げるように私の手首を離した。

「んぎゃっ」

「言えないような事があったのか」

その勢いでベッドへ倒れこんでしまい、すぐに起き上がろうとしたのだがリヴァイ兵長が私の上に覆いかぶさってきてそれを阻止した。
両隣についた手に恐怖感を抱きながらごくりと唾を飲み込んで見上げるとこちらをじっと見る心配そうな目と視線が合った。こんな顔もするんだと一瞬思ったが想像していたよりも間近にあった顔に心臓が早くなって極力その顔を見ないようにする。

「た、たいした事では、ないですよ?」

「大した事じゃないなら言え」

待っても待っても理由を話そうとしない私にリヴァイ兵長が次第に不機嫌になっていくのが分かる。本当に泣きそうになっていると上にいる彼は腕を伸ばしていた体勢を崩して私の耳元に自分の顔を寄せて体を密着させた。
悲鳴をあげそうになるのもつかの間で首付近の肩に強烈な痛みを感じる。何が起こったのか、茫然としていると再び目の前にリヴァイ兵長の顔が見えて、私の顔を見て満足気にいつものような悪そうな目つきのまま微笑んだ。ぽろりと一筋、私の涙がこめかみを通ってシーツにしみ込んだ。

「泣くなら俺が理由の時に泣け」

訳のわからない言葉にそのままでリヴァイ兵長を見ていると目元を指でぬぐわれる。

はい、とぼうっとしながら頷くとさっき噛まれた所をぺろっとなめられて私は正気に戻った。なんだか彼の手が私の胸の上にある気がするし足の間に彼の膝が割り込まれている気がする。どう考えても気のせいではない状況にさっと血の気が引いてこれから起こりうるであろう展開に正直に言ったほうがよかったかもしれないと今さらながら後悔するのであった。


140109 言いたいことはたいてい言えずに夜が明ける

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