うちのお隣さんにいたのがアルミンだった。 アルミンの家は両親が仕事で忙しく、彼の面倒を見てるお爺ちゃんに「年が近い子のほうが遊んでいて楽しいだろう、よかったら一緒に遊んでくれないか」とお願いをされてから私はアルミンと一緒に遊ぶことが多くなった。年が近いといっても私はいくつか年上だったのだけれど。 アルミンはかなりの人見知りらしく話しかけてもおどおどしていて私とほとんど目を合わせない。外で遊ぶよりも1人で本を読んでいるほうが楽しそうな男の子だった。 あまりの挙動不審な態度に嫌われているのかも、と思い1週間くらいアルミンの家を訪ねないでいると、ある日アルミンのほうからうちに来て顔を真っ赤にしながら「この本いっしょに読もう」とたどたどしく言った。 「いいよ」と答えるとアルミンはそれはもう幸せそうに笑った。アルミンはきっと他の誰よりも繊細で、とっても優しい子なのだ。その瞬間から、私はこの子とずっと仲良くしよう、この子をずっとそばで守ろうと密かに心の中で誓ったのだった。 さらさらの金髪に透き通った青色の瞳をしてるアルミンは聖書に出てくる天使みたいだった。ちなみに聖書は宗教団体が道に落としたのを拾った。それをアルミンに言うと「ナマエちゃんのほうが天使に似てるよ」と聖書の挿絵の天使と私を見比べながら言った。 「私はアルミンみたいに髪の毛もさらさらじゃないしまつげも長くないし肌だって真っ白じゃないし可愛くないもん」 「僕男の子だからそんな事言われても嬉しくない…」 不満そうにうつむいたアルミンの真っ白くて柔らかいほっぺたを軽くつまみながら「私はそういう男の子のほうが好きだよ」と言ったら、ぼぼぼっと効果音がつくかのように真っ赤になったのでそれがおもしろくて笑った。もうまたからかって、と私にほっぺたをつねられながら拗ねてもアルミンは可愛いだけだった。 「ナマエ、結婚するって本当かよ」 「はい?」 アルミンと同い年の友人エレンが私にいきなりそう言ってきた。エレンの隣にはいつものようにミカサもいる。年下の子とばかり遊んでいるのを心配した過保護なうちの親が婚約者とやらを連れてきたのだが、どうやらそれを知ったらしい。結婚なんかするわけないじゃん断ったよと言うとエレンとミカサはほっとした様子だった。 「そういえばアルミンの家いったらあいつ泣いててさあ、理由聞いても言わなかったんだけど何があったのか知ってるか?」 背負っていた蒔をほっぽり投げて走った。後ろでエレンが怒っているが気にしない。そういえば最近アルミンはなんかそっけなかったなあと思い返す。 アルミンの家に着くとエレンが言っていた通りアルミンは布団をかぶって1人で泣いていて、私の顔を見てびくっと体をはねさせた。小動物を思わせる姿にいてもたってもいられなくなってぎゅうと抱きしめる。 「アルミン誰にいじめられたの、いつものあいつらだなぶっとばしてやる」 「ナマエちゃん怖いよ…」 アルミンをいじめたくそがきどもにミカサを連れて仕返しに行くのは日常茶飯事だった(といってもミカサの姿を見ただけでいじめっこ達は逃げていった。) アルミンが泣いていると自分に悲しい事がおこる以上につらい気持ちになる。頬を流れる涙を目が腫れないようにハンカチで押さえるようにふいてあげながらアルミンが落ち着くのを待った。 泣いていた理由を聞くもなかなかそれを言おうとしないのを見てやっぱり奴らか、と思い外に出ようとするとアルミンは慌てて腰にへばりついて私を引き留めた。 「…ナマエちゃんが結婚しちゃうのかと思って」 恥ずかしそうに私のお腹に顔を押しつけてぽつりとそう呟いた。きゅうんと胸の高鳴りを感じアルミンの髪の毛を一束とってみつあみにしてあげる。 「結婚しちゃったらアルミンと遊べなくなっちゃうじゃない」 「ナマエちゃん結婚しないの?」 「アルミンが結婚したら、私もしようかな」 「じゃあ僕はずっと結婚しない」 「わたし一生独身かぁ」 「結婚したくなったら、僕とすればいいよ」 ふたつ目のみつあみが完成したところでぎゅうっと力強く抱きつかれた。知り合ったばかりの頃、目が少し合っただけでも怯えていたアルミンはどこへ行ったのか。こちらを見つめる、涙でいつもより一層きらきらした瞳に真っ赤な顔をした私がうつった。 そんな自分の顔を見られたくなくてじゃーんと鏡を目の前に持っていくと、アルミンはみつあみにされた髪の毛を見て不服な顔をした。 私の髪の毛でみつあみをし出すアルミンを横目に見ながら、さっきの言葉が本当になればいいなあとこっそり思う。この子の笑顔を私はずっと守っていきたい。アルミンがそばで笑っているだけで、なにがおこったとしてもきっと幸せに生きられるから。 私が編んだよりも綺麗に編まれたみつあみを見てエレンとミカサにも見せにいこうと手を差しのべると、アルミンはその手を優しくとってくれた。 140109 体温 |