short | ナノ



雪が降っていた。昨夜からずっとだ。おかげで辺り一面まっしろ。なので、今日は室内で新兵の面倒を見ながら装置の整備をしていた。それが終わり外の空気を吸いに出ると、寝転んでいるナマエが見えたのでぎょっとする。

「何してんだ」

「助けてジャン。立てない」

ふわふわした雪の上に横になっていたらいつの間にか寝ていたらしい。起きたら凍えて体が動かないとか、阿呆だ。凍傷で死ぬぞお前。訓練兵の時にした雪山での特訓がよみがえってぞっとした。
指先まで赤くなっている両手を掴むとナマエはまじで氷みたいに冷たい。上半身を起き上がらせると、力が入らないのかその固い体のまま俺に寄りかかってきたので、背中に手をやって体温を分け与える。吐く息は空気に触れるとはっきり白くなり、暖かい室内から急に冷えた場所にきたので鼻水が出てきた。

「俺が通りかからなかったら死んでたぞお前、ずび」

「鼻水つけるな」

「つけてねーよ」

くだらない話をしてないで早く中に入ったほうがいい。俺も寒すぎる。けれど、彼女にもうちょっとこうしていたいとか言われれば、あぁそうか、と頷いてしまう。
下を向くとナマエのすぐ横に、中に茶色いものが入っているタッパーがあった。それを見ていると、ナマエは俺の視線の先を辿って「それジャンのだよ」と言った。

「ハッピーバレンタイン。いえー」

「は?」

そう、今日はバレンタインだ。だが正直全く期待していなかった。付き合って何年か経つが、ナマエはバレンタインにチョコをあげるなんてした事がなかったからだ。男子全員に義理チョコを配る賑やかな女子達も「あ、彼女持ちにはあげないんで」と言い放ちくれなかった。調査兵団に入ってくるだけあって容赦ない。
ナマエは素直でないうえに照れ屋である。そこが可愛くもあるのだが。そして俺が困っていたり、焦ったりしている所を見るのを楽しんでいる節がある…。それが今年はまさかちゃんとしたものを用意しているとは。

「なかなか固まらないから雪に埋もれさせてみた」

「馬鹿じゃねーの」

「さいてー。もうあげない」

「すいませんありがとうございます」

たとえ包装されていないで、タッパーのまま渡されようが俺は嬉しかった。中身が得体のしれない形をしていてもとにかく俺は嬉しかったのだ。マルコがいたら、相変わらずナマエの事になるとしょうがないなぁ、と呆れられそうだ。

俺のためにチョコを冷やしにきたという事実に感動したのと、マルコを思い出して切なくなりさらにぎゅうっと抱きしめる。苦しい、死ぬ、とナマエがぜいぜい言い出したので力を緩めた。ナマエの服に鼻水がついてしまったが気づかないふりをしよう。
「もういいよ、中に入ろう」とどこか照れながら言うナマエがたいそう可愛く見えたのでそのまま見つめてキスをする。一瞬固まったナマエは、今された事に気づくとへなへなと再び俺に寄りかかり顔をうずめてきて、自然と笑みがこぼれた。



140213 つめたい唇

呼吸の何年か後な設定です

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