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巨人を仕留めた瞬間とセックスで絶頂に達した瞬間は似たような快感があると彼女は言う。ナマエは調査兵団の中でも数多くの巨人を討伐している。そんな彼女は実力だけ見れば優秀なのだが、誘われれば相手を選ばずにすぐ男と寝てしまうふしだらな女だった。ほとんどの仲間は軽蔑の眼差しを向け陰口を叩くも実践になるとナマエを頼って助けを求める。普段ひどい扱いをされていようがナマエはどんな人の所へも駆け付けた。

「いつ死ぬか分からないんだからやりたい事はやっておいたほうがいいじゃん」

こんなに強いのに彼女は常に死を覚悟しているらしい。俺はろう下で夜の約束をしていた彼女を偶然見て、相手の男が去った後「そういうのやめたほうがいいんじゃないですか」と初めて声をかけた。俺を見て一瞬きょとんとした彼女から出てきた言葉がこれだった。

「ただ快感を得るために不特定多数の人と関係を持つなんて動物と一緒じゃないですか」

「そんなような言葉、何百回と言われたことあるよ。多くの賛同者を得られるよう健全な事を言っている人だってさ、まともな性生活してるのかっていう」

私はただ自分に正直に行動しているだけだよと彼女は俺を見て笑った。笑った顔は妙に幼くなる。見た目だけなら普通に恋愛をして幸せな家庭を築きそうな清純な女性なのに。

「今の人、かなり年いってましたよいいんですか」

「ピクシス司令くらいの年の人ともやったことあるし、べつに」

「ナマエさんのことただのビッチとか陰で言ってましたけどいいんですか」

「否定はできないし、べつに」

何が楽しいのか不愛想にしている俺の顔を見てふふ、と彼女は笑った。窓から空を見上げて鼻歌を歌い出す彼女を見ながら「女の人にとっては、ナマエさんのしている行動はリスクしかないと思います」と言うと彼女から聞こえていたメロディーがぴたっと止んだ。

「エレンくんは、私を注意してどうしたいの。エレンくんも私とやりたいの?」

「俺は結婚する人とじゃないとやりません」

俺の考えを否定するかと思ったがあっさりとそうなんだ、と俺の顔を見て答え「まあエレンくんとは頼まれてもやらないけどね」と続けた。品定めされたようで良い気はしなかった。

「何でですか」

「エレンくんって昔の自分みたいで、よごしたくない」

彼女の言っている意味がよく分からなくて黙っていると空を眺める事に飽きたのか見上げていた視線を俺の方に向けた。
思えばこの人の泣いた顔や怒った顔を見た事がない。さっきからずっと俺と話しながらうすく微笑んでいるだけだし普段でもこの表情をしている気がする。今まで生きてきて感情を表に出した事があるのかさえ疑問だった。彼女と寝た男達は、そんな顔を見た事があるのだろうか。どうしてか分からないが彼女に名前も知らないあの男と夜を過ごしてほしくないという思いがふつふつと浮かんできた。

「今夜、訓練付き合ってくれませんか」

自然と口からそんな言葉が出てきて自分でも驚く。しかしこの誘いを取り消そうとは思わなかった。そのまま彼女と向き合って立っていると前方からいいよーと軽い声が聞こえた。微笑んでいる彼女を見つめていると、周りが噂していた彼女の印象は一気に消える。俺には、ナマエは誰かが手を繋いであげていないとふらふらさ迷ってそのまま帰ってこなくなるような弱い人間に見えた。
彼女は本心をどこに置いてきてしまったのだろうか。きっと心から笑った顔は想像もできないくらい可愛いと思うのに。セックス以外のやりたい事とやらを見つければいいのになあ、この人。


140109 ぼくは青い

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