呼吸 | ナノ


04


立体機動の訓練中、装置の手入れをしながらもうとうとしているナマエが見える。こいつも寝不足か。今日は得意な授業で助かったが俺もナマエと同じように昨日はなかなか寝付けなかった。

その理由はというと昨日の夜に喋ったナマエが今まで見た事がないくらいに可愛かったからだ。なんだあの赤い顔、いやあいつは俺と話す時に赤い顔をした事は何度もある。しかしそれは怒りの感情からくるもので昨日のような、照れた表情は初めて見た。ちらっとナマエのほうを見るとベルトが上手くつけられなくて手こずっているようだった。傍にエレンが寄ってきて手伝ってあげている。それを見て思わず舌打ちをすると俺の隣にいたマルコがびくっとして俺を見た。

「えーとジャン。気分が悪いみたいだけど大丈夫?」

「ちょっと寝てないだけだから気にすんな」

「そうなんだ、そういえばナマエも眠そうだね」

昨日ナマエを呼んでくるように頼まれたマルコは優しい性格から突っ込んでは聞いてこないが何があったのか気になっているのだろう。ナマエが可愛かったなんて言える訳もなくマルコが俺とナマエを交互に見ているのに気づかないふりをしてベルトの確認をする。

「つーか何で最近死に急ぎ野郎と一緒にいるんだよ、あいつ」

「そういえば昨日も談話室で一緒にいたなぁ」

ミカサとアルミンも一緒だったけれど、と続いた声が小さく聞こえたがエレンが昨日もナマエと一緒にいたと耳に入っただけで寝不足でいらついていた気持ちがさらに大きくなった。
ミカサとも仲が良いくせになんなんだあいつは、もういいからミカサといろよ。また舌打ちをすると「嫉妬かよジャン」とにやにやしながらコニーが近寄ってきた。

「な訳ねーだろ。あいつなんかに世話焼かれるなんてよっぽど馬鹿なんだなと思っただけだ」

「その馬鹿に告白したのは誰だよ」

通りすがりにライナーがぼそっと口にした。コニーとライナーが面白そうに俺を見てくるので鬱陶しくてしょうがない。こんなにも広まってしまうというのは想定外だったが、俺はナマエに告白をしたという事に後悔はしていなかった。ナマエにとって、俺はここにいるような訓練兵の同期の中の1人じゃなくて、ここを卒業して会えなくなったとしても俺の事を覚えていて欲しい。別に付き合いたいって訳じゃない。ただこれから先、近くにナマエがいたらいいなと、できれば卒業しても時々は連絡をとって会う仲くらいにはなりたいと思っただけだ。


「えーと、ちょっといいかな」

いつの間にか近くにいたアルミンがそう俺に声をかけた。こいつが俺に声をかけてくるのは珍しい。なんだよと聞くと遠慮しがちにこちらを見た。

「ナマエから伝言で、こっち見て噂するなだって」

じゃあそれだけだからとアルミンは逃げるように去って行った。
アルミンが行った先にいたナマエが目をひくつかせながら俺を見て親指をたて、それを勢いよく下に向ける。俗に言う地獄へ落ちろのポーズだ。その後に「えー、アルミンくそジャンにこっち見るなぼけ成績落ちろついでにライナーとコニーも成績落ちろって言ってくれたー?」と明らかに不自然なわざとこっちにまで聞こえるくらいの大きな声が聞こえた。
俺もそれに対抗して「おーいマルコー、雑音がうるさくて授業に集中できないって言ってきてくれよー、ついでにそのでかい態度も直せって言ってきてくれよー」と同じくらいの声で言ってやった。


「お前本当にナマエの事好きなのかよ…」

コニーがそんな俺とナマエを見て呆れながら尋ねる。俺はというと、昨日までは徹底的に俺を無視していたナマエがアルミン越しではあるが以前の、俺が告白をする前のような態度に戻ったという事がやけに嬉しかったりした。
こちらをじとっとした目で見ているナマエを見て急に俺の機嫌が直った姿を見たマルコがくすりと笑った気がする。「好きな奴には普通ああいう態度とるんじゃねえの?」とコニーが今にもキスしそうな距離にくっついて会話しているフランツとハンナを見た。目のやり場に困るくらい人前でいちゃいちゃするあのバカップルとすれ違う奴らはリア充爆発しろ…と呟く。しかしその声は2人だけの世界には聞こえていない。
一瞬俺がフランツの位置にいてナマエがハンナの位置にいるのを想像してしまったがすぐにその煩悩を消した。ナマエの照れた顔を見たというだけで眠れなかったのに、そんな事考えたらまた今日の夜も眠れなさそうだ。

「お前、今変な妄想しただろ」

「それはお前だろライナー」

ああ、悪いか?と開き直るライナーを無視して、全身のベルトがちゃんとついているかまだ確認している慎重な様子のナマエを見て思わず笑みがこぼれた。立体機動くらい俺が教えてやってもいいが、いい誘い方が思いつかねえ。


140110

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -