13 どうやらナマエが嫉妬をしているらしい。理由は俺がナマエ以外の女に気のある素振りをしたからだという。 考えられる人物の1人はミカサだ。何せ1度は一目惚れをした人物。さらさらした黒髪と、理想の女性そのものの見た目をしているので、いきなり目の前に現れると動揺してしまうのだ。2人目はクリスタだ。訓練兵皆に親切にしている姿を見ると、女神…と茫然としてしまう事も多々ある。3人目はサシャだ。以前調子が悪かった時に食いかけの芋をやったのだが、大げさに喜ばれたのでそれを見られたのかもしれない。最後の線は薄いが、この3人の誰か、またはそれ以外のやつにナマエが嫉妬をしているらしいのだ。大事な事なので2度言った。 訓練中、にやつく顔を抑えきれずにいると、隣でマルコが良かったねジャン!と何故かいつもよりさらに爽やかな顔をしている。俺の幸せをそんなにも応援してくれているのか、親友よ。 さて問題は、どうやってナマエの機嫌を直そうかという事だ。話しかける事も困難なこの状況では、大変難しい問題だ。以前はマルコに呼び出してもらうという事もできたのだが、今のナマエは、マルコでさえも警戒している状態なのだ。 そんなナマエは休憩中暇なのか、アルミンとぼーっとしりとりをしている。あそこだけ空気がのほほんとしている。コニーも暇なのか、俺に向かって変顔をしてきた。いつもなら吹き出してしまう所だが、考え事をしている今見ると馬鹿にされているようでとても不快だ。 いらいらしながらコニーのひょっとこのような変顔を見ていると、後ろからぽんっと肩を叩かれた。 「俺が協力してやろうか」 「ライナー…」 にやりと笑った顔をしているが、何故ライナーが事の状況を知っているのか。俺のプライバシーは筒抜けなのか。 「ベルトルトがアニから聞いて、俺にも伝わった。安心しろ、他には漏らさない」 絶対嘘だろ。その証拠に、今まさに何事かと知りたがっているコニーに、それがな…と話そうとしている。ベルトルトも大人しい顔して何聞いてやがる。アニも普通に教えるな。もう信じられるのはマルコしかいない。だがしかし、今はライナーの協力してやろうか、という言葉に頼る事にした。 … 「ぎゃっ」 俺の顔を見た途端逃げ出そうとしたナマエの首根っこを掴んで引き止めた。ぐぐぐ、とそのまま前に進もうとしているが、力で俺に勝てる訳がない。服が破けそうになったのであきらめるとナマエは疲れたのか息を整えていた。離すとすぐにまた逃げそうだったのでそのまま服を掴んでおく。 「ちょっと!わたしライナーに呼び出されたんだけど!」 「残念だったな。俺が頼んだ」 「前のお詫びに隠してあるパンくれるとか言ってたくせにあいつ!」 何のお詫びかは分からないが、ぐぬぬと唸っている。食い物に釣られるとかサシャかお前は。 「何で呼び出したかというとだな…」 「はあ、言わなくても、なんとなくわかるよ…」 何故かと聞くと、さっきライナーに「ミカサの事は気にするなよ」と言われたらしい。とんだお節介野郎だ。こちらを振り向いたので、掴んでいた服を離す。ナマエが俺を見上げたので心臓が跳ねた。上目使いやべえ。 「わたしの事好きだっていうのは勘違いだって気づいたんでしょ?わたしの事は気にしないで、ミカサに思いを伝えてきなよ」 ちげえ。 勘違いが行き過ぎている。こいつ。つうかミカサかよやっぱり。嫉妬したイコール俺の事が好きって事だと思ったんだが違うのか?てっきりそんなような事を言われると思っていた自分が恥ずかしい。いやもしかしたらナマエの事だから、嫉妬したという事に気づいていないのかもしれない。それ自体アニの推測だし分からないが。変な誤解をしている事は確かだ。 「どんだけ馬鹿なんだお前!ミカサに告白なんかできると思うか!俺が!」 「確かにジャンは振られると思う。まあその時は、なんていうか、どんまい」 「今から気まずい顔してんじゃねえよ」 俺はナマエが好きだって言ってるだろ…と続けて呟くとナマエの動きが止まった。こんな事何度も言うほうの身にもなってほしい。ずるずるしゃがみ込み顔を覆うとこちらを覗きこむ影がかかった。それと同時にジャンってミカサが好きなんじゃないんだ、と声が聞こえる。そうだって言ってるだろ。ナマエの顔を見ると何故かにやにやしていた。 「ジャンを見下ろすっていい気分だなー。もっと背伸びないかな」 「…せいぜい頑張れよ」 のん気なナマエを見ていたら、なんかもう、どうでも良くなった。ナマエが俺の事を好きだろうが、嫌いだろうが、協力する代わりにクリスタにライナーの良さをちょくちょくアピールするようにと言われた事とか、ナマエがこうして笑っていればもうどうでもいいさ。 140213 |