呼吸 | ナノ


01


ジャンとわたしの間柄を問われれば訓練兵の全員が「仲が悪い」と答えるだろう。

「邪魔だチビ」

「標準サイズなんですけど?ちょっとわたしより背が高いからって調子のるなよ」

「背どころか成績も俺のほうが上なんだよなー、おまえが俺に勝てることってこの世にあるんだろうか」

「顔と性格。これだけ勝ってれば充分だわ」

「しね」

目が合えば教官に怒られるかお互いの気がすむまで口喧嘩が続く。最初は仲裁に入っていた仲間達も今ではああまたやってると横を通り過ぎるだけだ。エレンとジャンのように殴り合いにならないだけまだ良いけどいらいらするのには変わりない。
ジャンのおかげで口も悪くなり男受けは最悪だしストレスでわたしの頭はうすくなったような気がするし、もう無視すれば?とも友達に言われるけれどジャンに嫌味を言われるとどうしても言い返してしまう。だって言われっぱなしだとくやしいもんね。


思えばあいつは初対面から失礼なやつだった。
ジャンと初めて話したのは対人格闘技の授業で、偶然ペアになったわたしをじっと見たかと思うと「弱そう」ぽつりと呟いた。入団当時、わたしなりにやる気に満ち溢れていたのでそれだけでもむっとしてぜってえこいつボコす、と決めてならずものになったジャンの方へ勢いよく向かうとなんとあいつは見るからに手加減してわざと倒れたのだった。

「この授業、成績に関わらねえし真面目にやるだけ馬鹿だろ」

そう言ったジャンの目は、反抗期の中学生のような目をしていた。

「きょうかんんんキルシュタインくんがあああさぼってまあああす」

「は!?何叫んでんだおまえ」

「今にも盗んだバイクで走りだしそうでえええす」

「意味わからねえよいい加減だまれ!」

わたしの首をしめようとするジャンをマルコがまあまあと言って静めにきたがわたし達の言い合いは止まらなかった。この時のわたしのジャンへの第一印象は「あ、この人嫌いだ」である。その後うるさくした罰としてわたしとジャンはいつかのサシャのように死ぬ直前まで走らされた。
それからというもの見かければ何とか言い負かしたくて授業中でも食事中でも休みの日でも所かまわず喧嘩をした。時々これは言い過ぎたかなとひやっとしてもジャンはそれを上回る嫌味を言い返してくるのでわたしは腹が立ってまた言い返す。

場をわきまえて適度に手を抜きつつも良い成績をとってしまうジャンと、いつでも全力で真面目に授業を受けているのにいまいち成績がふるわないわたし。相性が合わないのは当たり前だ、そう思っていた。




訓練兵になって2年が過ぎた。3年目に入ってから何日かして、わたしはジャンに呼び出された。座学が終わり次の授業に移動する時、ジャンが近寄ってきてまた何か言われるのかとにらみつけたら

「夜、ちょっと外でてこい」

小声でそれだけ言って去っていった。隣にいたクリスタがえっまさか…と頬を赤らめてこっちを見たが決してクリスタが想像しているような色めき立つ展開などではない。


あいつはとうとう殺る気だ、わたしを。


立体起動装置を部屋に持って帰ろうとしたが教官の目が怖くて諦め、アニに対人格闘技の技を教えてと言ったがめんどくさいと断られ、ろくな準備はできなかったのでジャンに殺人予告された現場を見ていたクリスタに遺言を残しておいた。

「わたしが今日の夜帰ってこなかったらジャンのせいだから」

「えっナマエ、それって…だめ、まだ私たちそんなことしていい年齢じゃないよ?」

「年齢なんか関係ないよ」

またしてもクリスタの顔が赤かったがこれで証人もできてジャンに罪がかかるのは確実なのでよしとしよう。
覚悟を決めて丸腰で女子部屋から外へ出ると、すでにジャンは目の前にある芝生に座っていた。わたしを見つけたジャンはいつもの嫌悪感ありまくりとは違うなんだかよそよそしい空気でおう、と挨拶をしたがきっとこれはわたしを油断させる作戦だ。警戒しながら少し距離を開けて座るとジャンはわたしをちらっと見てから気まずそうに話し出した。

「今日の夕食、結構うまかったな」

「いつもと同じじゃん、味覚大丈夫?」

わたしの言葉にいつものように言い返そうとしたジャンははっと気づいたように口を閉じた。黙ってしまい、こぶしを口元にあてて何かを考えている姿を見て戸惑うもチャンスだとばかりに「今日ミカサに髪の毛についたごみとってもらっちゃった」とか「てかその髪の毛どこでカットしてんの?」とかジャンが反応しそうな言葉を投げかけてみた。
あいかわらず無反応なジャンを見てもしかして熱でもあるんじゃないのと思い帰ろうとする。なんでわたしを呼び出したのかは分からないけどゆっくり休んだほうがいいだろう。さすがのジャンでも熱が出たままあの過酷な授業を受けるのは可哀想だし。
そう思い立ち上がるとジャンがこっちを見て、帰っていこうとするわたしの手をぱしっと掴んだ。

「な、なに…」

「いや、なんつーか」

うつむいていた顔を上げてわたしの目をじっと見た。


「好きだ、たぶん。おまえのことが」


真っ赤な顔をしてそう言われた。やっぱりジャンは、熱があるんだ。掴まれた手からこっちにも熱が伝染していくような気がした。


140109

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -