呼吸 | ナノ


10


ジャンとナマエが変だ。
朝、ミカサと眠そうにして食堂へやってきたナマエはこちらへ来る時にすれ違ったジャンと目が合うとさっとそらした。ジャンは無言でショックをうけていた。そして席に着いた時に見えたナマエの頬はほのかにピンク色に染まっていた。


「もう怪我は平気?」

「うん。ごめんねアルミン、心配かけて」


軽い打ち身で済んだらしいが立ち上がったりする時にはまだ痛そうにしている。この程度の怪我では訓練は休ませてもらえないだろうし、今日の授業が座学で良かったなとナマエを見て思う。
そういえば僕とエレンが彼女の元へ駆け付けた時にはすでにジャンに背負われていた。あの後何かあったのだろうか、この二人。さっきしていた、照れたような表情はもう消えて空腹だったのか勢いよくパンにかじりついている。

「だから昨日俺らに少しくらい夕食もらえば良かったのに」

「ダイエット中だからいいの」

「必要ねえだろ」

エレンはナマエの言った事を間に受けているが、たぶんナマエはこれ以上迷惑をかけてはいけないと思ったのだろう。昨日は夕食を分けようとした僕らを制して宿舎へと走って行ってしまった。いつの間にかナマエの隣にいたサシャが「それなら少し分けてもらえたりしませんか?へへ」と言ったのだがナマエは返事をせずに全部食べてしまった。サシャは絶望した顔をしていた。



「ねえナマエ、昨日ジャンと何かあった?」

「ええっ!」

座学の教室に行く途中、エレンとミカサに聞こえないようにそっと聞いてみた。
ナマエは、思いのほか大きい声が出てしまった口を押さえて後ろを確認した。いつものようにミカサがエレンの世話を焼いているので耳には入っていないようだ。

「なんで?」

「昨日二人きりになったなら何か起こってもおかしくないし、今朝ナマエのジャンへの反応を見て思ったんだ」

「名探偵アルミン…」

実は、とナマエが僕のほうに顔を寄せたのだが後ろから「なんか近すぎないかお前ら」とエレンの声がしてぱっと離れる。

「ナマエが男と話すとエレンは何故か機嫌が悪くなる。できるだけ男には近づかないようにして」

重いよミカサ…と引いているナマエに何言ってんだよ!と顔を赤くしているエレン。僕はとりあえずはは、と乾いた笑いをしておく。続きを聞くタイミングを逃してしまった。



授業中、黒板の文字を書き写していると視界の隅に開かれたノートが入ってきた。隅っこの不自然な場所に僕へと向けられた文字がある。

『昨日、ジャンの前で泣いちゃった』

ちらっと隣を見ると困ったような顔をしたナマエと目があった。

『それは、怪我が痛くて?』

『わたしってだめだなと思ってね』

『ジャンはたぶんそういうナマエの気持ちを分かってくれていると思うよ』

『んー』

どう返事をしようと悩んでいるのか、あまり上手くない馬のらくがきの隣にジャンと書き足したので笑いそうになってしまった。したり顔をしているナマエはまたペンを走らせる。

『それからジャンの目を見れなくなってしまったのですがどうしよう?』

それは、と返事を書こうとしたらここは試験に出すぞという先生の声に僕らは顔を上げた。それはジャンに気持ちが傾いているって事なんじゃ?
ナマエがますますジャンと話せなくなりそうだからやっぱりそう書かなくてよかったな、と思った。


授業が終わって席を立ち上がるとミカサが扉とは違う方向に歩き出した。それを見たナマエがどこに行くのかを聞くとなんと「男達にナマエとはあまり口を聞かないように言ってくる」と言い出した。まさかさっきの事をまだ気にしていたとは。青冷めたナマエを見て止めようとしたのだが、ミカサは一足早く目の前にいた人物に声をかけてしまった。

「ジャン」

ミカサの声に振り返ったジャンを見て、ぼとっと何かが落ちる音がした。その音にミカサとジャンもこちらを見る。隣にいるナマエが茫然としていて、床には落としたのであろう筆記用具が散らばっていた。これはまずい光景を見てしまった。だってミカサに声をかけられた時のジャンは動揺していて、まるで好きな人に話しかけられた時みたいな顔をしていたから。


140127

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