06 おはようございますマルコ・ボットです。 僕は毎日、皆よりちょっとだけ早く目が覚める。ぼうっとしながら周りを見渡すと部屋の男子達は休日だからか普段よりも爆睡している様子だ。そういえば今日は久しぶりに街へ買い出しにでも行こうかと思っていたのだけれど、ジャンに俺1人であいつらの面倒を見る自信がないと言われたので僕も一緒に立体機動の訓練をする事にしたのだった。 ジャンがナマエを好きだという事はうすうす勘付いていた。仲が悪い、お互いに嫌い同士だと周りは思っていたみたいだけど彼はよくナマエを目で追っていたしナマエが失敗をすると助けてあげたそうにしていた。まあこれはいつも隣にいる僕じゃないと分からない事だろう。 言い方が嫌味ったらしいのでナマエは怒るだけだったし、あの態度なら嫌いだと勘違いされてもしょうがない。でもまさか告白するほどの気持ちとは思わなかったのでそんなにナマエの事が好きならば友達として応援してあげようと思ったのだった。 「てかここにいる全員でナマエに教えるつもりかよ」 「俺らで教えるから2人は自主練してればいいだろ。実力的には俺とミカサのほうが上だし」 エレンの言葉にあ?とジャンが反応する。ミカサはともかくお前が俺より上な訳ねえだろこの死に急ぎ野郎がと詰め寄った。ここで殴り合いになられても困るので2人の間に入ってなだめに行く。この状況だとジャンはナマエよりもエレンと喧嘩になるみたいだ。ナマエはというとあいかわらずだなーとジャンとエレンを眺めていたのだが、ふと気づいたように「あ、でもわたしもミカサに教わりたい」と手を挙げて言った。 「てめえ、俺がわざわざ教えてやるっていうのにミカサに教わりたいってどういう事だよ」 「だってジャンよりミカサのほうが強いじゃん」 そんでジャンより立体機動上手くなってぎゃふんと言わせてやると続けるとエレンがナマエは俺らに教わりたいらしいぞ、と勝ち誇ったようにジャンを見た。正確にはミカサに教わりたいと言っていたのだが都合のいいように解釈しているようだ。目をらんらんと輝かせて無表情のミカサを見ながらやる気になっているナマエにジャンは諦めたようでため息をついた後「勝手にしろ」と、僕をつれて3人から離れた場所に移動してしまった。 「俺って何でここにいるんだろうな」 「僕が聞きたいよ」 ナマエと一緒に休日を過ごせるうえに自分の得意なものを教えられると思っていた彼は今大層がっかりしているに違いない。エレンとミカサも一緒という時点で僕らの思い通りに事は進まないんだろうなとは思っていたけれど。 「ジャンって本当にナマエの事を好きなの?」 「なんだよ、突然」 「最初はミカサの事が好きなんだと思っていたから」 「俺もそう思ってたけどな」 あの日、クリスタと一緒にいたナマエを見かけていつものようにからかいに行くかと思ったら違ったので何の用があるんだろうと不思議がっている僕に一言「今日の夜ナマエに言う」とジャンが言った。彼から恋愛相談なんてされた事なんかなかったがなんとなく、ナマエに自分の気持ちを言うんだろうなと思った。ジャンもきっと僕が気づいていると知っていたのだろう。 「ミカサは好きだが、話す度に緊張して会話なんかまともにできねえ。家に一緒にいたら、安心するのはナマエだろ」 なんだそれは、家に一緒にいたらってまさか結婚まで考えているつもりか。唖然としてジャンを見ていると今した発言に自分でも驚いたのかだんだんと顔が赤くなっていった。これ以上は聞かれたくないようで自主練に行ってくる、とジャンは立体機動装置を巧みに扱いあっという間に見えなくなってしまった。ナマエにもあのくらい素直になれれば、と思ったがいやあんな事言われたらナマエは気持ち悪がるかもしれないと考え直す。 さて僕は何をしようかと木にもたれながら悩んでいるとマルコ、とナマエがこちらにかけ足で近寄ってきていた。さっきまでジャンがいたというのにタイミングが悪い。 「どうしたのナマエ、エレンとミカサは?」 「あの2人にはついていけない」 実力はあってもミカサは教え方が下手だった。というより本能のまま動いているミカサは自分でもどうしてあそこまで素早く動け、深く切りつける事ができるのか分かっていないらしい。口で説明するより見て覚えろとばかりに行動に映すミカサに教わっても全く理解できず、一方エレンは俺だって負けねえとミカサと張り合い気が付けば2人はナマエを置いて遠くへ飛んで行ってしまったのだという。その光景を想像して思わず苦笑するとナマエも同じような表情を浮かべた。 「なんかもう疲れたなぁ」 「もうちょっと頑張ろうよ」 ナマエが僕の隣に腰かけてだるそうにしている。そういえばこんなふうに2人だけで会話するのは初めてだ。ジャンと喧嘩している時の印象が強いので正直もっとうるさいイメージだったのだが、1人でここにいた時と変わらない空気感から本当は穏やかな子なんだろうなと思う。葉っぱからもれる日の光を浴びながらそのまま座っていると何気なくだろうがナマエがぽつりと呟いた。 「でも今から頑張っても上位10人には入れないよねえ」 「ナマエって憲兵団志望だったっけ」 「違うけど、ジャンが」 あ、と何かに気づいたように沈黙が流れた。さっきの言葉を誤魔化すかのように突然へたくそな口笛を吹き始める彼女を見てこれは何かあるぞと僕はだんだん心を弾ませる。 「へえ」 「え?」 「ジャンに、ナマエがジャンと一緒に憲兵団に入りたいって言ってたって伝えておいてあげようか?」 「絶対やめて」 『ジャンと一緒に憲兵団に入りたい』ってところは否定しないのか、と顔が勝手ににやついてしまった。僕の顔を見てナマエがマルコまでわたしを苛めないでよとしゅんとしたので慌てて謝る。でもジャンがナマエを構いたくなる気持ちが少し分かったかもしれない。 しばらくして帰ってきたジャンがナマエを見てなんでここにいるんだよと言いつつも嬉しそうな顔をしていた。しかしナマエに腕を引っ張られ「さっきのは絶対言わないで、言ったら絶交」とこそこそ話をされている僕を見て不満気な顔に変わった。 きっと聞いたら喜ぶ事だからそんな顔しないでよ、まあ言えないんだけどね。ごめんジャン。 140112 |