05 「おい大丈夫かよ」 午前中の立体機動の訓練が終わり食堂へと向かいながらエレンに声をかけられた。 うん、と返事をしながらもあくびが出たのでさっと口を両手で隠す。さっきの授業では気合いを入れたもののいつも以上に巨人に見立てた板のうなじを削ぐ事ができなかった。倒れたり怪我をしなかったのが幸いだったが、眠気で頭がぼーとしている。そんなわたしの顔を見たエレンに午後寝るなよとくぎをさされた。 「昨日、そんなに遅くまであいつと話してたのかよ」 「ううん、すぐ部屋に戻ったよ」 「じゃあ何でそんな眠そうにしてるんだ?」 卒業後にジャンと会えなくなるのを想像したらちょっとセンチメンタルな気分になってしまったなんて言えずエレンに「なに、やきもち?」と話をはぐらかしてみると隣を歩くエレンは黙ってしまった。 「やきもちって食べられるんですか?おいしいですか?」 「サシャ、やきもちは食べられない」 偶然言葉が耳に入ったのかサシャが近寄ってきた。いつの間にかエレンの隣にいたミカサがそれに答えて、それを聞いてサシャはがっかりした表情をするも昼食が楽しみなようで早足で食堂へ向かっていく。 「ナマエ、エレンが心配しているのは寝不足でナマエの成績がさらに落ちてしまうのではないかということ。昨日の夜の事ではない」 う、うん分かってるよとミカサが真顔でつらつらと話すのに若干引きながら答える。普段のミカサは口下手ながらも色々とこちらを気遣ってくれるのだがエレンの事となると途端に敵対心を向けられる。「やきもちっていうのは冗談だから、ねえエレン」あせりながらエレンの方を見ると、は?お前またそれかよ、と瞳孔が開いた目でこっちを見てきた。え、なにミカサ以上に怖いんだけど。 2人の視線に耐えきれずアルミンに助けを求めようときょろきょろと辺りを見渡すも彼はベルトルトにさっきの授業について相談しているようだった。とりあえずこの場から逃げようと思う。 「わたしもベルトルトに立体機動の事教えてもらいに行こうかな…」 「だったらジャンに教えてもらえばいいよ」 ね?と近くでジャンと一緒に話しをしていたと思っていたマルコが傍にいてこちらを見た。その言葉にエレンがぴくりと反応する。ジャンはマルコの隣にいておい、と突然ナマエに自分の話題を振った友人を不思議がっていた。ジャンに何かを教えてもらうという光景が想像できなくて断ろうと口を開くと、それを察知したのかマルコはわたしが言葉を発する前にぐいっとわたしとの距離を詰めた。 「僕もジャンにちょくちょくアドバイスをもらっているし、ナマエもきっと上達すると思うんだ。ジャンは人に教えるの上手だよ」 「とは言ってもジャンがわたしに教えてくれる訳ないでしょ」 そう言いながらジャンのほうをちらっと見ると視線がぶつかり変な間があった後お互いに顔を背ける。何故マルコがこんなにもジャンをおすすめしてくるのか分からなかったが、ジャンの立体機動の実力は認めるし教えてもらえば本当に上手くなりそうな気もする。上手いとまではいかなくても今より少しはましになるだけでわたしにとってはありがたかった。まああいつはどうせ断るだろう。わたしの事が好きだとか言っても今まで優しくされた事なんかないし。 「今度の休日なら空いてるし、教えてやってもいいけど」 その声のほうにぱっと顔を向けるとジャンは遠くのほうに目線をやりながらどこか落ち着かない様子だった。 今のセリフを言ったのは本当にジャンなのか、疑っているとマルコによかったねナマエ、と言われたので本当にジャンが言ったらしい。うわめずらしい、きっと明日は雨だよ。 「そんなに教えたいんだったら教えてもらってあげてもいいけど」 「ツンデレとか可愛くねえぞ」 ジャンに突っ込まれたわたしを見て隣にいるマルコはにこにこしていた。わたしもにこにこしそうになったのはたぶんマルコにつられたからだ。 「ああ、俺も休日特に予定もないし教えてやるよ」 「私達が教えれば、ナマエもきっと思ってもいない方向に飛んで行ったりしなくなるはず」 気づいたらエレンとミカサも訓練に付き合ってくれる事になっていた。勝手に話が進んでいる私達を見て「お前らも来るのかよ」とジャンとマルコが文句を言いたそうな目をしていた。 140111 |