バァァンと勢いよく扉にぶつかる音がして一緒に食事をしていたエルド、グンタと顔を見合わせる。恐る恐る鍵を開けると、予想していた人物が顔を押さえながらうずくまっていた。 「ねえナマエペットを飼い始めたんだって?ソニーとビーンが殺されたばかりだっていうのに無神経だね!」 こちらを見上げると、ハンジさんが飛びついてきてうわああと泣き出し、エルドとグンタは何も言わずに席を立った。余りうるさくするなよ、とグンタが言い残して行ったがそう言うならここに残ってハンジさんを黙らせてほしい。ハンジさんは、私なんか巨人を捕獲させてくれるまで相当説得したのにさあと嘆いている。 「巨人とコニーを一緒にしないでください!」 「なにそれコニーってあのブタの名前?なんかソニーとビーンに音調似てない?私にどんな恨みがあるんだよナマエ!」 私が拾ったミニブタの、あの丸っこい感じがエレンくんの同期にいるコニーくんとやらに似ていたのでそう名付けた。それってあの坊主頭だけじゃないですか、とエレンくんは不服そうだったが一度そう思ったら先入観は抜けないものだ。 「それにしてもあのリヴァイがよく動物を飼うなんて許したね」 「ブタは意外と清潔なんですよ。トイレをする場所とご飯を食べる場所は分けるし、雑草も食べてくれるし」 「へー」 ハンジさんは全く興味がないのか鼻をほじりながら明後日の方を向いている。いつも巨人のくだらない知識を聞いてあげているのだから少しは私の話だって聞いてくれてもいいじゃないか。足元に近づいてきたコニーを抱っこしてハンジさんの顔に近づける。ほら可愛いでしょハンジさん。 「あ、本当だナマエそっくりで可愛いね」 そう言われると非常に複雑だ。しかもほっぺを両手でつままれたのでやっぱりそういう事か、太ったという事?そういえばリヴァイ兵長も時々意味もなく頬とか腹とか触ってくるけどやっぱりそういう事なのか。 考えていると「なんかナマエを見てたら気が抜けたから、巨人の話でもしない?」とかハンジさんが言い出した。実は最初からそれが目的だったでしょあなた。 「ナマエっていつも私の話を嫌々ながらもちゃんと聞いてくれるよね。そういう所好きだよ」 「わーい。実はいつもハンジさんの話を聞き流しながら、早く帰らないかなあクソメガネって思ってましたごめんなさい」 「あぁ、時々口に出てたよそれ。幻聴かと思ったら本当に言ってたんだ。でも大丈夫、私ナマエはいい子だって知ってるからさ」 眼鏡の奥で光る曇りのない瞳を見て、ハンジさん!と抱き付けばナマエ!と、ぎゅうと抱きしめ返してくれる。リヴァイ班に入る前から、私とハンジさんはちょっとの失言くらい気にしない仲なのだ。ただし巨人の悪口を言うとしばらくは口を聞いてくれないという、壊れやすくてもろい仲だ。 2人でぎゅうぎゅう抱き合っていると扉が開いてエレンくんが入ってきた。無言でコップに水を注いで席に着き、こちらを観察しているのでなんか気まずい。ハンジさんがそれを見て「羨ましいんだろエレン」と尋ねる。なんだそうだったの。私はエレンくんの方に向かって両手を広げた。 「さあおいでエレンくん」 「え、いいんですか?」 「え、だめだけど…」 立ち上がったエレンくんはまた座りなおした。ちっと舌打ちまでして絶賛不機嫌モードだ。勢いで抱きついてくれれば受け止めたけど、聞かれると恥ずかしいじゃないの。ハンジさんはさて今日は何から話そうかなあ、ともう頭の中は巨人でいっぱいになっている。ハンジさんが言ったから乗っただけなのに…。 「はあ、コニー。一緒にお風呂でも入りましょうか」 「まじでやめてくれませんかその名前」 じゃあ何と呼べというのか。ブーちゃん?トントン?この丸くて小さなフォルム。もはやコニー以外にぴったりな名前なんてない。 「ナマエでいいんじゃないかな。ナマエ裸で寒くないの?洋服着た方がいいんじゃない?」 「セクハラですか?」 「あぁ、それいいですね。俺もそう呼ぶ事にします。ナマエ…、さん」 私をちらっと見て顔を覆うエレンくん。意識しすぎである。というかこの子人の下着はまじまじと見ておいて、呼び捨てするのが恥ずかしいとかどういう事。 私も何か飲もうかなぁと思っているとハンジさんがハアハアしながら巨人の「きょ」という一音を口にしたので、私とエレンくんは目だけで会話をして頷き、その場から立ち去った。 140208 |