光みたいなひと
俺はどうしていいかわからなくて、ただ、扉の前で泣いていた。ようやく必要とされていたと気付けたのに、突き放されて、結局俺ってなんだよと、嘆くばかり。みんなの言う通りだ。図体ばかりでかくなって、中身はちっとも大きくならず、情けないまま。
そんなとき、突然、扉の反対側から、けたたましいガラスの音が響いた。ずっと閉めっぱなしだった窓から風が入り、外を見たくなくて閉めっぱなしだったカーテンはたなびいている。そして窓のさんに足をかけた、小さな身体。
「あんたに、笑顔を持ってきた」
ああ、眩しいな。小さいくせに、どこまでも届きそうな光は、笑いながら俺に手を伸ばした。

「……旭さん?」
「う、ああ……」
目を開ければ、西谷と目が合う。腕枕をしていたため、距離は普段よりもずっと近い。少しぼんやりしていたが、そういえば、西谷と一緒だった。子供じみた大人の戯れを終えて、ゆったりとした雰囲気のなかで、どうやら少し寝てしまったようだ。不思議そうに俺を見つめていたが、小さく笑うと、同じようにやわらかに顔を綻ばせた。
「うとうとしてたっすけど、起こさない方よかったすか?」
「いや、大丈夫。ありがとう」
頬に手を伸ばし、子猫にするようにかるく指で撫でれば、気持ちよさげに擦りよってきた。さっきまでの、見た目と反した色気も捨てがたいけれど、こう言う何気ないかわいさの方が、やっぱり好きだ。俺を信頼して寄り添ってくれるのが、あったかくて、心地いい。
西谷のぬくもりを確かめたいと、そっと抱き寄せる。自分より二回り程度小さな身体は潰れてしまいそうで、怖い。実際そんなことはないし、むしろ西谷の心は俺よりずっと強いというのに。
「……西谷、」
「なんすか」
「……あったけ」
「俺はむしろあっついすけど」
不満げな西谷の額に鼻を宛てる。微かに香る汗の香りに、さっきまでの行為と、淫靡な水音と、扱いきれない快感と、西谷の声が思い返され、少しむずむずする。しかし、さすがに西谷に無理はさせられないし、俺の状況に気付いた西谷からの冷たい視線も痛い。今日はもうお預けだ。
「まったく……旭さんのはへなちょこの中身と違いすぎっすよ」
「……ごめんなさい」
西谷の言葉がぐさりとささり、起こり出した興奮も、息を潜めてしまった。西谷は不満げに言いながらも離れはしない。俺もそれに甘えたまま、ずっと西谷を抱き締めたままだ。
「ずっとこのままならいいのに」
「そんなの無理っす」
ぽそりと呟いた言葉さえ、西谷に切られてしまう。俺は落胆したまま、西谷の額に自分の額を合わせた。
「わかってはいるよもちろん、でも夢くらい持ちたい」
自分でも情けないと思う。頼りがいのある後輩の言葉に右往左往、いつまでも甘い時間が続いてほしくて、先を見たくないなんて。
でも、やはり手放したくないよ。
「旭さん強すぎ」
「あ、ごめん……」
いつの間にか西谷を抱き締める腕に、余計な力が入っていたらしい。顔をしかめて俺を押し返す西谷に小さく謝る。西谷はいつものように気の強い目で俺を見つめているから、何となく顔を背ける。しかし西谷が、勢いよく俺の顔を抑え、そのまま唇を重ねた。すぐに離れてしまった姿を、呆然と眺める。
「何に不安がってんだか知んないっすけど、俺は、何回離れたって、また旭さんとこに迎えに来ますから」
余計なこと考えないでくださいと、西谷は強く言い切った。
俺は一度まばたきをし、そして小さく笑う。
やっぱり西谷は、俺の光だ。

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bkm

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