俺を挟むな
 今日何回サーブを打っただろう。肩が重い、掌が痛い。一度握りしめてほどく。わずかにしびれるような感覚があった。そしてそれと同時に、うまく回転がかかったボールを打った時の感覚も、思い出される。あと少し、あと少しで掴める。俺のサーブが、チームを支える武器になる。そう思うと、疲労感なんてどうってことないように思えた。
 寝室を目指して歩く。秋の風は肌に冷たい。汗で湿った身体が冷える。くしゅんっと小さくくしゃみをしてから前を向けば、見慣れた二人が言い争っているのが見えた。変人コンビ、天才コンビ。烏野の兵器。影山と日向だ。
「……どうかしたの?」
「あ、山口!」
 二人の声が被って俺の名前を呼ぶ。わずかに呆れて苦笑いを浮かべながら、そのまま近づく。もし取っ組み合いの喧嘩に発展したならば、止めなかった俺もどやされてしまうかもしれない。
 俺が入っても、二人の間に流れる険悪な空気は変わりない。いや、むしろさらに悪化した気さえする。なんだかいたたまれなくて小さくため息をついた。そんな俺の服の裾をぐいぐいと引く日向。その顔は不満げにむくれている。
「俺山口のこと好きなのに、影山が信じてくれないんだよー!」
「へ?」
 不満げに唇を尖らせた日向。え、今俺のこと好きって言った?
「……それって仲間としてだよね?」
わずかに苦笑しながら尋ねると日向はさらに不満げに頬をむくれさせた。え、俺なんかまずいこと言ったかな?
「山口まで、影山とおんなじ!そうじゃなくて」
 瞬間、下のほうへと引っ張られる。すぐに体勢を戻そうとしたが、その前に日向の顔が近づく。口元にほんのり熱くわずかに硬い感触……ん?
「へっへー!奪っちゃった」
 にひひと唇を指で撫でる日向、言葉や見た目とは裏腹にやけに色っぽく見える。え、俺今キスされたの? 同じように唇を撫でる。意識すればするほど、顔が熱くなる。そんな俺と楽しげな日向とは裏腹に、影山は日向が失敗したときのように不満げな顔をした。おもわずびくりと体が震える。
「おい山口!」
「は、はい!!」
 思わずぴっと背筋を伸ばしたのもつかの間、ぐいっと顎を引かれてさっきの日向より荒々しく唇を押し付けられる。そしてそのまま、舌を思い切り入れられ、絡めとられる。ちゅく、と聞きなれない音が耳に届く。酸欠から力が抜ける。抵抗できずぎゅっと目をつむるだけ。日向に見られているのだろうか、というか影山なにこれうますぎない? 志向がうまくまとまらずすぐに流れていく。ようやく解放されれば情けなく影山に寄りかかって荒く息をついた。
「俺はこんくらい山口が好きだ、前に好きな子ができたらこうしろって及川さんに言われた」
「ぐぬぬ……!」
 影山の肩に顔を預けているため、そえぞれは見えないが影山のどや顔と日向の悔しげな顔が目に浮かぶ。そこ張り合うとこじゃないし、俺のいないとこでしてほしいし、影山もしかして及川さんに教え込まれたの? 言いたいことも聞きたいこともたくさんあるけど、身の危険も感じるので、落ち着いたら俺かえっていいですか。
 


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bkm

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