うそとじょうだん
昼休み、呼び出されたため3年生の階へ向かえば、ラウンジでうんうんと唸っている木兎さんを見つけた。目の前には、部活の活動報告書。ペンを握ったままじっとそれを睨んでいる姿が何だかおかしくて、声をかけずに前の椅子に座る。じっと観察、固そうな髪、子供みたいな雰囲気、がっしりとした身体。この身体で、試合中は何度も空へ跳んでくれる。浮き沈みが激しくて、しかも情けない場面ばかり目立つけど、やっぱりチームを支える軸であることには違いない。木兎さんのおかげで、俺たちも気負いしすぎることなく戦える。俺の、最高にかっこいいエースだ。ふわりと頬が緩む。
「……っわあ!あ、赤葦もういたのか!」
「あ、はい。すいません」
突然顔をあげ、大袈裟なくらい驚いてみせた木兎さんに思わず謝る。木兎さんは、来てたならいえよー!と不満げに唇を尖らせ、机に伏し、ペンを弄びはじめてしまった。あー、やってしまったか。思わずため息が溢れた。木兎さんの扱いは相変わらず面倒だ。
「木兎さん、ごめんなさい」
ぽんぽんと、髪を撫でながら慰めるように声をかける。木兎さんは完全に机に突っ伏して、まるで相手にしてくれないようだ。ふたたび溜め息をついて、木兎さんのすぐ隣にまわる。機嫌直してくださいと背中をさする。
そのとき、突然に木兎さんの手がのびてきて、俺の背中にまわされた。すぐに引き寄せられて、ちょうど木兎さんより高い位置に顔が来る。すぐ下には木兎さんの顔。いつも見ているはずなのに、どきりと鼓動が高なった。じっと木兎さんとみつめあう。
「赤葦、好きだ」
木兎さんは真剣な眼差しを向けたまま、俺にいい放った。少し、身体が震えた。顔が熱い。訳が分からず、どう返していいか考えあぐねていると、唐突に木兎さんの口元が緩み、すぐに笑ってしまった。
「なーんて冗談だよ!赤葦おもしれー」
「な……!」
にやりと笑った木兎さんにさらに恥ずかしさが増す。思わず手を振りほどいて、脇目もふらずに走り出した。木兎さんの声が後ろから聞こえたが、構うものか。
呼吸と鼓動が早い、熱い。恥ずかしいのと照れ臭いのと。あと少しの安心感。見透かされたのかと思った。俺が、木兎さんのことを好きなんだと。
木兎さんにあんなのを吹き込んだのは誰だ。あの人に冗談なんて言えるはずがないから、誰かの策略に決まってる。見つけたら、ただじゃおかない。

走り去った赤葦を見送って、はああっと深く溜め息をつく。あー言っちゃった。なんとか誤魔化したけれど、大丈夫かな。俺が本当に赤葦を好きだって、バレてないかな。近くに顔が来ちゃって、気が動転してた。
「……俺が嘘つけないって一番知ってるの赤葦だよなあ」
ペンをくるくると回しながら、また溜め息をついた。

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bkm

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