くりーむ
試合中は飄々とした態度は身を潜め、主将らしく、周りに指示を出していた。流れるような動きに、敵ながら見とれてしまった。猫らしく、しなやかな動きをじっと観察していた。こちらに気づいたらしく、にっと何気なくこちらに向けられた笑顔に思わずときめいてしまい、ああ私にもまだ乙女心の破片があったんだなと新しい発見をしてしまった。恋、なんて呼べないくらい拙いものだろうけど。
それから数ヵ月、夏のインターハイを越えて、秋が来た次に目指すのは春高バレー。肌寒いなか、音駒高校での合宿が行われる。
部員へのボトルを用意しながら、空をあおぐ。宮城には及ばないにしろ、中々にきれいな星が広がっていた。半袖で過ごすにはもう涼しすぎる。くしゅん、と小さくくしゃみをして、蛇口をしめる。水に濡れた手が風にさらされて、ちょっと痛い。はあ、と軽く息を吹き掛ける。
「大丈夫か?」
「え、あ……」
突然の声に驚いて振り返ると、ふわりとパーカーをかけられる。赤い薄手の長袖が落ちないように押さえながら、声のしたほうを見上げる。音駒高校の主将、黒尾がひらひらと笑いながら手を振っていた。どきりと脈打った鼓動に気付かない振りをして顔を繕う。
「何だよ黒尾か」
「そんな嫌そうな顔すんなよ……」
黒尾は髪をかきながら不満げに俺を見下ろしていた。構わずふいと視線をそらす。ずっと上から来る視線がちょっと怖い。どきどき、とわずかに逸る鼓動が気にくわない。
「俺なんか嫌われるようなことしたっけ?」
「ちゃらちゃらしてんのは嫌なの」
「あー……澤村サンはいかにも真面目そうだもんな」
でも俺そんなにちゃらくないのに、と少し落ち込んだ長身がおかしくて小さく笑う。ふわりとかおる黒尾の匂い、子猫から漂うクリーム匂いに似ている。襟口を引き寄せてぎゅっと握る。暖かくて甘い。どきどき。
しばらくそうしていると黒尾は不満げに眉をひそめ、やっぱ返せとパーカーをひっぺがした。思わずにらむ。
しかし、突然腕を寄せられてぐいっと引っ張られた。バランスを崩して、勢いのまま黒尾へと倒れ込む。ちょうど顔が黒尾の胸辺りをつく。背中に腕が回され、ぶわりと顔が熱くなる。
「寒いなら俺が暖めてやろうか、大地ちゃん」
にひひとからかうように笑った黒尾の鳩尾を思いきり殴る。痛みから体勢を崩した黒尾の腕から逃れ、ボトルの入ったかごをもって駆け出す。その重さなんて、苦にならなかった。
あーくそ!あいつといると気が乱される。なんでときめいちゃうんだよ……。

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bkm

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