ぬくぬく
「研磨補給ー……」
「ちょっと、クロ邪魔」
むぎゅうと俺を抱き締めてくるクロの手をどかそうとしても、体格的に到底敵わない。こうなったクロは、自分が納得するまで、動こうとはしない。本当なら流しておきたいけれど、これじゃ操作もしづらい。諦めてゲームをスリープモードに切り換え、脇におく。クロに向き直って正面から受け止め、宥めるようにその背中をさすった。
今は俺の家、近くに住むクロがいきなり乗り込んできているのだ。クロは中学生の頃からこう。大変な日が続いたり、嫌なことがあると俺をぎゅって抱き締めて、すがってくる。普段は飄々として胡散臭いけど、こう言うところはちょっとかわいい。
ぐりぐりとおでこを押し付けてきたクロの頭を撫でて、ぽんぽんと子供をあやすように軽くたたく。お疲れさま、俺がそう言うとクロは柔らかく笑っておでこにキスをしてきた。少し照れ臭い。
「今日の研磨、やけに素直だな」
「そうでもないけど、嫌?」
「んーん?全然」
鼻を寄せあうようにしながら、戯れる。クロの顔がすぐ近くにある。見馴れているはずなのに、これだけ近づくと、まったく違うひとのようで、いつも緊張する。でも、体温はクロそのもので、緊張が抜け出て、安心がじんわりと広がっていく。クロは酸素みたいだ。隣にいるのが当たり前で、ぬくもりが当たり前で。多分俺はクロがいなきゃ生きられないって言っても間違いじゃないほど、依存してる。クロと唇を合わせる。クロが吐いた薄い酸素を吸って生きてるみたいに、深く繋がる。唇と、繋いだ手から、ぶわりと熱が沸き上がる気がした。どちらともなく唇を離して、顔を見合わせて笑った。
ひょいとクロに持ち上げられて、そのままベッドに下ろされる。俺のベッドじゃ、クロには小さそうだなとクロを見つめる。どう勘違いされたのか分からないけれど、また唇を塞がれた。まあ、いいや。舌を絡めて、角度を変えて、俺が背中に腕を回したら、クロは俺の髪を撫でて。唇が離れる頃には、俺の視界はじわりと滲んでいた。クロの長い指が、目元を掠めて涙をぬぐう。何気なくクロの手を取って指を舐めれば、猫みてえと笑われた。 クロはそのまま俺の髪の何本かを持ち上げて、ちゅっとわざとらしく音をたてて口づける。
「やっぱ昔の黒髪のがよかったな」
「……戻さないからね?」
「知ってるよ」
染め直したってあの黒髪は戻らないしな。クロは俺の頭のてっぺんを撫でて、薄く笑った。時間は流れるものだから仕方ない。クロの手のぬくもりは今だって本物だ。

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bkm

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