秋の風
それはいつもと変わらない部活のあとに訪れた。
「今日からうちの部は基本恋愛禁止とする」
前に立った澤村さんは試合中に見せるような真面目な顔をしていった。エイプリルフールは何ヵ月も前に過ぎた。これは本当のことだ。わずかな沈黙が流れたあと、田中さんと西谷さんが鬼気迫る顔で前に踏み出した。
「大地さんそいつはどういうことですか!?」
「高校生から恋愛をとって何が残るって!」
「もちろん、部活と勉強が残る」
もはや泣き出してしまいそうな二人に、澤村は当然と言うように返した。そして、真面目だった表情を少し緩め、穏やかな口調でいった。
「別に絶対するなってことじゃないんだ。これから春高に向けて、部活は厳しくなっていくだろう。だからって、3年生以外も勉強を疎かにしていいわけじゃない。どっちも両立できるってやつは、好きに恋愛してくれて構わないよ」
澤村さんはさっきよりずっと柔らかく、笑っていた。でも、俺の気持ちは相変わらず晴れない。部活と勉強の両立が出来ていなければ恋愛禁止。じゃあ、俺と影山はやっぱり。
「日向どうした?」
「え、あっ、ちょっと暑くて!風浴びてきますね!」
心配そうに見つめていた菅原さんに笑って、周りを気にせず外へ駆け出す。秋の風はひやりと冷たい。暑いなんて、嘘だ。さっきの部活で火照った身体も心も、ものの数分で冷えきってしまった。体育館から飛び出して駐輪場に行く。勢いのまま出てきてしまったから、早く帰らなきゃいけないのに。頭ではわかっていても、動きたくない。へたりと駐輪場の隣に座り込んで、膝を抱える。
俺と影山は数週間前から付き合っていた。別に何をするわけでもない。部活のあとに一緒に帰ったり、昼休みに会ったら話したり、その程度だ。一番の進歩は手を繋げたこと。どきどきして恥ずかしいから振りほどきたいのに、それができなくて、数分間そのままだった。
だから、恋愛が禁止されて別れたとしても、対して生活が変わるわけじゃない。けれども、影山の手のぬくもりは今でも思い出せるし、そのときの心臓の音と、緊張で、俺が影山を好きだと思い知らされてしまった。ぎゅっと、腕に力を込める。そのとき、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。びくっ、肩が震える。
「おい、みんな心配してたぞ」
きっと俺の前には、いつも通りの仏頂面で、いつも通りの偉そうな態度で、影山がたってる。それを見ることさえ、ひどく辛く感じた。じっとそのまま動かずにいたら、影山が痺れを切らして俺の腕を握り思いきり引っ張った。勢いに逆らえなくて、そのまま影山の腕に飛び込む形になる。思わず、つんと鼻が痛んだ。影山はなにも言わない。
「……お前はへーきなのかよ」
「仕方ねえだろ」
影山は吐き捨てるように呟きつつも、そっと俺の髪を撫でた。こんなに近くにいるのが初めてで、緊張で身体ががしりとかたくなった気がする。
影山も多分、俺と同じくらい辛い。別に部活としてなら、俺と影山二人でいることに、なんの問題もないだろう。しかし、恋愛というくくりがなくなって、どうしてこんなに悲しいんだろう。影山はすぐ近くにいるのに、ずっと遠い存在になった気がする。
秋の風が冷たい。寂しいなんて、こいつには言いたくないし、言えるわけもなかった。

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bkm

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