あまいあまい、
肉付きのあまり良くない脚を取って、ハーフパンツをめくりあげ、太腿の付け根に舌を這わせる。ぴちゅ、ちゅくとわざと音をたててその滑らかさを堪能していたら、早くしろと頭を叩かれてしまった。菅原さんの顔を見上げれば、真っ赤に染まり羞恥からかわずかに潤んでさえもいる。これで煽っていないと言うのだから、この人の色気は恐ろしい。このまま手を出してしまいたい衝動に駆られるが、何だか抗議の視線が厳しい。仕方ないから、黙って目的を済ませよう。
舌で舐めた箇所に今度は歯を立てる。女性ほど柔らかではないが、多過ぎない筋肉が、ちょうどよいくらいの弾力を生み出していた。尖った八重歯で、穴を開けるように皮を切る。菅原さんは服の袖を噛んで痛みを堪えているらしかった。ぞくぞくと加虐欲が心を支配しかけたが、ぐっと我慢する。じわりと滲んできた血を舌先で舐め取り、唇を寄せて吸いつく。ちゅ、ちゅと2度だけリップ音をたてて、口を離す。改めて見てみると、歯形と鬱血痕を唾液が染める様子は酷く痛々しかった。誰にも見えないところに自分の所有印を押し付ける行為は独占欲を満たした。マグカップの底に押された焼印のように、手にして覗いて見なければ、誰にもわからない。もしこじ開ける輩がいたら僕が容赦しない。我ながら随分依存してると思う。
「月島変態くさい」
太腿をシーツで拭きながら不満げに唇を尖らせた菅原さんに笑いを堪えながらその首に正面から抱きつく。むすりと不貞腐れていた表情がふわりと解れて、僕の首にも腕が回された。単純で、可愛い。それでいて、色気も持ち合わせているなんて、本当に反則だ。
「月島ってさ、やっぱ誰かの血のまないと生きてけないの?吸血鬼なんでしょ?」
「いえ、一ヶ月に一度くらいで大丈夫ですよ。クオーターなので」
菅原さんの横に寝転んでその髪を弄る。ふわふわとしたくせっ毛、多分僕も伸ばしたら似たようなことになるんだろうな。擦り寄ってくる頬は柔らかい、マシュマロみたいだ。
「じゃあ、俺以外の血はほんとに吸ってないんだね」
「何度もそう言っているでしょう」
ため息をつきながらその背中に腕を回す。ごめんごめんと笑いながら、胸に収まる身体が愛しい。
僕の祖父は吸血鬼だった。祖母が他界したあと、どこかに去って以来行方は分からない。物語に登場するような、完全な不老不死ではないらしいけど、年の割に異常に若く見えたことは、今でも覚えている。父に聞いた話だが、祖父は少なくとも一週間に一度は、血を吸わないと貧血になるらしい。人よりずっと少量の血で生活出来るが、自分で血は作れないんだそうだ。
父は二週間に一度、僕は一ヶ月に一度誰かから血を吸わなければ体調を崩してしまうが、それ以外は普通の人間と何も変わらない。菅原さんと恋仲になるまでは、何故か吸血鬼の特徴が現れなかった兄や、事情を知っていた山口に血をわけてもらっていたが、最近は菅原さん以外誰からも血を吸っていない。
「じゃあ月島は俺がいないと生きてけないんだね」
胸のなかに収まった菅原さんは、にまにまと楽しげに笑いながら僕を見上げていた。逆さまになった目を見つめながら、当たり前でしょと小さく笑う。
もぞもぞと身体の向きを変えて、ちょうど僕の胸にすがりつくような体勢に変わる。ぎゅっとシャツの布を握りこんで心臓に耳を宛てがわれる。ふわりと閉じられた瞼が、長いまつげが、きれいだ。
「俺の血がさ、月島の身体に入って、この心臓から送り出される血に混じってさ、全身を満たすんだよ?それなら、ちょっとくらい痛いのならいくらでも我慢できる」
ふふっと妖艶に笑みながら、背伸びをした菅原さんの背に腕を回し、唇を寄せる。
絡めた舌は、血よりもずっと甘美な味がした。

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bkm

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