いちごきゃらめる味
四時間めの体育の帰り道、昼休みになりガヤガヤと騒がしい人混みのなかに、見慣れた長身。結んだ髪を整える姿は、やっぱり周りと同じ学年には見えない。西谷は自分より何pも大きなその背をめがけ、思いきり走り出した。
「旭さん!」
「っうわああ!?に、西谷あ……」
突然起こった衝撃に、東峰は前に揺らめきつつ、肩にぶら下がった西谷を支えて倒れることなく持ちこたえた。東峰は溜め息を付きながら、首だけをわずかに向ける。身長差もさることながら、腕力の差も歴然としている二人では、当然西谷の勢いに東峰の力が劣ることはない。周りの3年生も、ああまたあの小さな後輩くんかと、微笑ましげに眺めていた。
「体育の帰りか?」
「っす!バスケしてきました」
東峰から離れ床に足を下ろし、西谷はいつものように笑って額の汗をぬぐった。まだ火照っているらしい赤い肌は、今までやっていた運動量の多さを物語っている。東峰は思わず、元気だなあと溜め息をついた。西谷を見ていると、何だか自分が急に老けてしまったような気になる。
「ああ、そうだ」
東峰はポケットから1つのキャラメルを取り出した。さっき隣の女子生徒が、幸薄そうでかわいそうだからと言う、訳の分からない理由で東峰に押し付けてきたものだ。さっき食べたときに嫌そうな顔をしていたから、恐らく自分が想像していたものと違っていたために、誰かに消費してもらいたかったんだろう。
東峰は、はいっと西谷に軽く投げた。西谷はキャラメルを両手で包むように取って、不思議そうに首をかしげた。
「旭さん、甘いの嫌いでしたっけ?」
「いや、そうじゃないけどさ、西谷好きかなあって」
東峰は小さく笑いながら頭をかいた。本当のことを言えば、東峰は何か話題作りをしたかったのだ。部活中は連携と言う繋がりがあっても、こう言うときに何を話していいかわからなかった。西谷と、少しでも長く話したい節もある。
西谷は未だにキャラメルを不思議そうに見つめている。そして辺りをキョロキョロと見回した。賑やかな声は教室から聞こえるだけで、廊下は打って代わって静かだった。
西谷は銀の包みをあけ、キャラメルを口内に放り込んだ。少し舐めた後、半分の辺りで噛みきる。そして勢いよく東峰の襟元を自分の方へ引っ張った。
東峰は急に起きた勢いのまま、西谷の前に少ししゃがむような体勢になる。東峰が状況を把握する前に、西谷の顔が目の前に現れた。
西谷は東峰の斜め下から、自分の唇を東峰のそれに押し付け、舌を差し入れ無理矢理開けさせた。そしてそのまま、西谷の口内にあった2つのキャラメルのうち1つを、東峰の方に押しやる。東峰は西谷の後ろの壁に手をつけながら何とか立っているだけで手一杯で、一連の動きには茫然と流されるだけだった。口の中に、甘ったるい苺とキャラメルの風味が広がる。
そしてキャラメルを移し終えると、西谷は東峰の襟から手を話し、いつものように笑う。
「それ美味いから、旭さんにもお裾分けっす!」
西谷の頬は、まるで女の子がわざとチークを塗ったように、うっすらと赤らんでいた。きっと、さっきまでの体育のせいだけではない。
東峰が話しかけるより先に西谷は走り去ってしまった。相変わらず足が速いと見送ってしまう。
「お裾分けって……元々俺があげたやつだろ」
溜め息混じりの呟きを聞く相手はもちろん誰もいない。
残ったのは苺味のキャラメルと、その甘さと、微かな余韻。案外やっこかったな、東峰は口元の緩みを抑えられなかった。

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bkm

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