なみだ
居残り練習を終え、さて風呂に入って寝ようかと思ったときだった。渡り廊下近くの水道のとこに、寄りかかる人影を見かけた。タオルを頭に被ってうつむく姿が、秋の涼しさとあいまって、何だか哀愁がある。目がなれてきて確認した人物は澤村だった。からかってやろうと近づき思い切りその背を叩く。
「おっさんくせえぞ澤村くーん!」
ぱあんと盛大に響いた音と共に澤村の顔がむすりとしかめられる。にひひと笑うと、不機嫌そうにふいっと顔を背けられてしまった。いつもなら拳の1つでも飛んできそうなものなのに、今日はやけに威勢がない。
「澤村、なんかあったか」
タオルの上からわしゃわしゃと頭を撫でると、ぱしりと手を叩かれた。気にすんな、試合中の頼れる主将からはうって変わり、弱々しい声。ちょっとだけじんじんと痛む手を気にしないフリをして、ぐいっと澤村の身体を引き寄せる。運動してきた身体に、風にふかれた澤村の身体はひやりと冷たい。
「なーにしたんだよ、らしくねえじゃん。生憎気にするなと言われっと余計気になる性分なんです」
タオルのせいで顔は見えないが、何となくどんな顔は想像できた。
「……俺らしいってどんな?」
抵抗せず、俺の肩に凭れる大勢のまま、澤村は小さく呟いた。ほんとに弱ってら、ちょっと新鮮だ。
「こう、しっかりしててスポーツしてる好青年!って感じで、なんか安心出来るみたいな?」
我ながら言葉の貧相さに内心で笑いながら、澤村の返答を待つ。澤村はぐしぐしとタオルで頭を擦りながら、そんなんじゃねえよと、少し投げやり気味に吐き捨てた。
「……黒尾も、さ」
「んー?」
なるべく澤村が声量を上げなくて済むように、首を傾け、しっかりと耳を寄せる。こいつの抱えてる悩みは、きっと俺も隠し持ったものだ。
「周りからの期待とか主将だけの責任感とか、あるか?」
「おう、もちろん」
わざと口角をあげて笑う。やっぱり予想通りだった。澤村はふーん、と軽く流して、しかし少し縋るように俺の袖を握った。同じ男なのに、気持ち悪いとも暑苦しいとも思わない。むしろかわいくすらあった。
俺たちは主将だから、コートのなかでは、他の誰が崩れても、最後まで支えていなきゃならない。どんなにきつい局面でも、俺らが諦めたら、受け入れることになっちまうから。
でも、コートの外でなら、ちょっとくらい誰かに寄りかかっても、罰なんて当たらないだろ?俺らだって人間なんだからさ。抱えきれない分は、ちゃんと下ろしていかないと。
ぽんぽんと、澤村をあやすように抱き寄せる。溢れる嗚咽と、湿っていくタオルには、気づかないふりをした。

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bkm

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