鞄の重み
身長の高さに憧れも嫉妬も、ないと言ったら嘘になる。普段の生活、なおさら部活のなか。自分より何十pも高いやつがいる生活を過ごして、背伸びをしないでいられるだろうか。少なくとも、俺には無理だった。小さい自分をからかわれるのは嫌だったし、でかいやつにはムカついた。
テスト期間だからと学校に置いていた科目を鞄につめたら、想像以上の重さになってしまった。今更また出し直すのも面倒で、ふらつきながらリュックを背負う。体幹が後ろに傾いているのは感じていたが、そのまま帰路につく。外に出るまで我慢すれば、そのあとは自転車だ。普段よりバランスは取りにくいだろうが、なんとかなるだろう。
自然と背筋を伸ばしたまま歩く。部活とポジション柄、あまりたくましい筋肉のついていない身体ではやはり重いものを背負っているのはそれなりに辛かった。こんなことなら、もう少し減らしておけばよかったと後悔してみても、もはや1階まで降りる方が早いだろう。覚束ない足取りのまま、次の階段へと足をかける。一段一段、ゆっくりと進む。あともう少しで踊り場だと安心したのもつかの間、ぐらりとバランスが崩れた。
「っわ!?」
転倒の痛みに備えて目をつむったが、一向に衝撃はやってこない。そっと身体を支える感覚を不思議に思い、目を開けた。
「夜久さん、荷物持ちすぎっすよ」
荷物に振り回されてると、にやにや笑うリエーフに抱えられ、踊り場へとおろされる。いつの間にか、リュックはリエーフが持っていた。軽々と持って見える姿に、少し嫉妬しながら顔を背けた。軽い背中が不思議でならない。
「勉強すんだよ、わりーか」
助けてもらったと言うのにこの態度はなんだと我ながら殴りたくなる。しかし、リエーフは気に留めた様子もなく、こんなにやるなんてスゲーっすね!と感嘆の声をあげていた。
1階までを二人ならんで降りる。何だか「先輩命令」で、無理矢理荷物を持たせているような気がして気分が悪い。しかし、途中で取り上げてしまうのも、嫌っていると勘違いされそうで嫌だった。結局、何もせず、隣を歩く。リエーフは対照的に、歌を口ずさみ、機嫌が良さそうだった。
昇降口につく。そろそろリュックを返せとリエーフにせがもうとすれば、リエーフは何故か辺りをきょろきょろと見回していた。辺りの人影はまばらだった。そのまま、3年の下駄箱前へと来る。
「おい、リエーフ。荷物返して」
「ちょっと待ってください!」
リエーフは急に真面目な顔で俺の方を見た。思わず少し後ずさる。背中に、下駄箱が当たった。さらに近づくリエーフの姿に、何故だか抵抗できなかった。失礼します、リエーフは小さく呟き、俺の前髪を押し上げた。ぎゅっと目をつむる。微かに柔らかな感触が、額をついた。
「へへ、お礼もらっちゃいました。荷物ここに置いておきますね」
もう転ばないでくださいよと、わずかに頬を赤らめながら笑い、そのまま去っていってしまった。思わず、床にへたり込む。今あいつ何したの?思考は全く追い付かない。
何とか重い荷物を背負い直し、上履きを脱いだ。しかし、さっきまでのことを考えて、頭が熱い、顔も熱い。重さのせいで、ぐらつく。
「……思い出したらどうしてくれるんだよ」
まだ柔らかさの名残がある額を擦る。熱が出たときのように、熱かった。
身長の高いやつは好きじゃない。リエーフはそのなかでも、一際訳がわからなかった。

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bkm

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