3時の話
乱れたシーツの上にうつ伏せに沈みながら、呼吸を整える。隣に寝転び、にやにやと口端を上げる木兎さんの顔に苛立った。顔に枕を叩きつけてやろうと振りかぶったものの、疲労困憊した身体は上手く制御が利かず、力なく木兎さんに抱きつく形になる。俄然楽しげな顔が気に食わないが、秋の空気は身体に冷たく、シャツ一枚の身体に人肌は暖かいため、諦めて身を寄せた。珍しく素直だと言うように驚いた顔をしたまま、俺を見つめる木兎さんに、ちょっとだけ勝った気分だ。
ぎゅっと、木兎さんの肩に抱きつき、その胸元に擦りよる。女性のように柔らかなものではなく、むしろ俺よりもずっとたくましい。このたくましい身体で、精神はかなり幼いにしても、高校時代はチームを支えていた。コートの中で何度も空へ跳ぶ彼は、誰よりもかっこよく輝いて見えた。そんな彼だから、いくら面倒でも、何回でもボールを繋いだのだ。
「……赤葦がかわいいけど怖い」
そんな俺の気なんて露も知らず。木兎さんはぶるぶるとわざと身体を震わせている。げしっと軽く肩を叩く。痛いぞと文句をいいながら、背中を抱き寄せる。木兎さんの身体は、全部が俺より暖かい。
「木兎さんがあんなに激しくしなかったらもうちょっとマシに動けますよ」
「ごめんなさい」
情けなく下げられた眉に、笑いが込み上げてきた。ふふ、と小さく笑いながら、木兎さんの髪へと手を伸ばす。普段は嘗められないようにと、ワックスで固められた髪。洗い流すと、羽毛のようにふわふわだ。普段よりずっと幼く見える顔に、少しだけ優越感を抱く。子供っぽい彼の、子供っぽい姿を堪能できるのは、「恋人」の俺の特権だ。
「赤葦ぃ……それ楽しい?」
「そうでもないですよ」
がっくりと肩を落とす木兎さんが意地けてしまわないように、その頬へ唇を落とす。そして彼が伸ばす手に抗わず、唇を重ねた。さっきまでの激しさとうって変わった和やかさが、返って照れ臭くて、心地いい。
木兎さんが俺がやっていたように、俺の頭を撫でる。ぬくもりに身体全体が包まれるようだ。薄くて柔らかなヴェールが、俺と木兎さんごと、1つに包み込んでしまう。
「いい匂いする」
すんすんと首筋に鼻を寄せられるのがくすぐったくて、身体を捩る。やめてくださいよ、もーちょっと。くだらないやり取りにさえ、幸せを感じてしまうのだから、かなりの重症らしい。木兎さんを独占する充実感。
「……赤葦独占幸せ」
ふう、と息をつく木兎さんを見る。同じことを考えていたことが気恥ずかしい。多分、今の俺の顔は赤らんでいるだろう。見られないように、布団を押し上げ頭に被り、顔を木兎さんに押し付けた。なんだなんだ、と騒がしい彼は無視だ無視。
ちょうどいいぬくもりを感じながら、ほうっとため息をつく。今、幸せですなんて。絶対に言ってやらない。彼が調子に乗りすぎたら、また面倒なことになるのだ。
ふと目を向けた時計は、3時くらいをさしていた。俺の気分は、3時のおやつを食べた子供の満足感に似ているのかもしれない。

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bkm

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