以前とはすっかり様相の変わってしまった青年に、少女──ララは声を掛ける。
「あの……リュウガ……」
青年はこちらに背を向けたまま答えない。このまま無視を決め込まれるかと思ったが、
「その名で呼ぶなと言ったはずだが?」
ほんの少しだけ振り向いて、青年は呟く。威圧感のある声音に、ララは萎縮してしまう。
「ごめんなさい……」
彼がこちらに向かって来る。改めて、彼の姿を見る。以前より髪は伸び、真っ黒なローブを着込み、身につけていた眼帯は外されていた。その代わりに前髪を伸ばしていたが、完全にその目を隠そうという気持ちもないようだ。
「ゼロは?」
「……」
今度はこちらが答えずにいると、青年は凄んだ眼つきでこちらを睨む。
「……自室に」
それだけを聞くと、あっさりとララの傍を通り過ぎ、その場から去って行った。
ゼロは自室に設えられたテーブルの側の椅子に座って、ぼんやりとした時間を過ごしていた。
「…………」
すると突然、部屋の扉が開かれた。入って来た人物は、ゼロが最も苦手になってしまった者だった。
彼はローブを翻しながらこちらへと歩み寄る。突如腕を掴まれたかと思うと椅子から引き摺り下ろされ、抱えられ、寝台へどさりと放り込まれた。
こちらの頬を無言で撫でる青年。ゼロは目の前の者を睨んだつもりだったが、彼が妖しく笑むところを見ると、上手く出来たかは分からない。
「ボクが……」
ぽつりと、言葉を溢す。
「ボクが、魔王だったのに……」
青年の笑みが深まる。
極端に口数が少なくなり、極端に容姿が変わり、極端に威圧感が増したこの男。
これから起こる出来事に覚悟を決めて、ゼロはきゅっと瞳を閉じた。