魔王 - 1

 以前とはすっかり様相の変わってしまった青年に、少女──ララは声を掛ける。
「あの……リュウガ……」
 青年はこちらに背を向けたまま答えない。このまま無視を決め込まれるかと思ったが、
「その名で呼ぶなと言ったはずだが?」
 ほんの少しだけ振り向いて、青年は呟く。威圧感のある声音に、ララは萎縮してしまう。
「ごめんなさい……」
 彼がこちらに向かって来る。改めて、彼の姿を見る。以前より髪は伸び、真っ黒なローブを着込み、身につけていた眼帯は外されていた。その代わりに前髪を伸ばしていたが、完全にその目を隠そうという気持ちもないようだ。
「ゼロは?」
「……」
 今度はこちらが答えずにいると、青年は凄んだ眼つきでこちらを睨む。
「……自室に」
 それだけを聞くと、あっさりとララの傍を通り過ぎ、その場から去って行った。

 ゼロは自室に設えられたテーブルの側の椅子に座って、ぼんやりとした時間を過ごしていた。
「…………」
 すると突然、部屋の扉が開かれた。入って来た人物は、ゼロが最も苦手になってしまった者だった。
 彼はローブを翻しながらこちらへと歩み寄る。突如腕を掴まれたかと思うと椅子から引き摺り下ろされ、抱えられ、寝台へどさりと放り込まれた。

 こちらの頬を無言で撫でる青年。ゼロは目の前の者を睨んだつもりだったが、彼が妖しく笑むところを見ると、上手く出来たかは分からない。
「ボクが……」
 ぽつりと、言葉を溢す。
「ボクが、魔王だったのに……」
 青年の笑みが深まる。
 極端に口数が少なくなり、極端に容姿が変わり、極端に威圧感が増したこの男。

 これから起こる出来事に覚悟を決めて、ゼロはきゅっと瞳を閉じた。

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