純粋悪

 無機質な部屋にひとり立つ。瞳を閉じると、「世界の様子」が浮かび上がって来る──

 自身には「誰かに報いたい」という気持ちがない。「優しくしたい」という気持ちも、「尽くしたい」という気持ちも。
 あるとすれば……

(加虐心……かな)
 それは、過去に何かあったから……というような「ワケアリ」の心ではない。持って生まれたモノだ。誰かが泣いていたり、絶望していたり、はたまた不幸になったり──そういう様子を見ていると、たまらなく快感を覚えるのだ。

 靴音を響かせながら、部屋の中心へと向かう。そこには簡素なベッドがあり、さらにその上には、ひとりの少女が横たわっていた。
 愛らしい顔の色は蒼白で、瞳は静かに閉じられている。
「……スノウ」
 少女の名を呼ぶ。当然、返事などないが。
 ベッドの端に腰掛けて、その顔を見つめる。
「今日も、街がひとつ潰れたよ」
 天井を見上げた。
「ここまで来るのに少し時間がかかっちまった。でも、たくさんの──」
 片腕を挙げ、今度は自身の掌に目を遣る。少しの沈黙の後、腕を下げた。
「手に入ったよ。たくさんの命が」
 ふふ。低い笑い声を漏らして、言葉を紡ぐ。
「いつになるかな。もしかしたら、世界中の人間の命を捧げてもムリかもしれないな。でも、例えそうだとしても、俺は構わないんだ」

 ──この世界を壊すこと自体が目的なのだから。

 言ってしまえば、少女のことは世界を潰すついでに過ぎない。目覚めれば儲けもの、くらいの感覚だ。それでも目を覚ましたら、歓迎はしてやろうとは思う。

「目が覚めてさ。そのときにはもう、俺とスノウしかいなかったら──お前はどうする?」
 静かに眠り続ける少女を横目に見遣りながら、とつとつと語り続ける。
「俺は興奮するね。だって──」

 目覚めたお前をこの手で消すのが、楽しみで楽しみで仕方がないんだ。

「眠っているところをなんてつまらない。目が覚めて一番はじめに俺を見て、そしてその俺に消されて行く。どんなカオをするのか──」

 とん、とベッドから降りる。

「ま、ついでではあるけど、そういう楽しみもあるから。早く目覚めてくれよ」
 歪んだ笑みを白い少女に向けてから、踵を返す。
「さて。もうひと仕事してきますかね」